輸送費を商品価格に転嫁できない難しさが小売店の経営環境を厳しくしている(グリーンストア入舟店)
国会で取り上げられている離島に特化した物価対策。国土交通省は離島の物流の効率化に焦点を当てた調査を今年度も継続して進めているものの、どのような対策がいつから実施されるのか見通せない。暮らしに欠かせない食品は奄美の場合、小売店が県本土から船舶による海上輸送(鹿児島間)で取り寄せている。必要となる輸送費は上昇する一方で価格に転嫁できず、地元企業の経営を圧迫する要因と深刻な状況にある。
「5年前に比べると運賃(船舶輸送費)が150~160%も上がった。やがて倍になるかもしれない」。24時間営業店を含む奄美市内に五つの店舗がある㈱グリーンストアの里綾子社長。「毎日商品を取り寄せ卸し、新鮮なものを地元の人々に提供したい。そうなるとコストがかかってしまう。負担が大きい」と話す。
入舟店の赤尾均店長によると、肉や魚類を含めて「日配品(にっぱいひん)」と呼ばれる冷蔵品はこれまで貨物船を運航する1社を利用してきた。ところが物流に関する費用(燃料費、運送費、人件費)の上昇が「転嫁されて、こちらの負担となる。何とかして輸送コストを下げたい。他社(別の船会社)から見積もりを取り、昨年から貨物船だけでなく定期船も使っている。手を打たなければおそらくコンテナ運賃は2倍近くになっていたのではないか」。
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輸送コストの引き下げに知恵を絞るのは理由がある。奄美に進出している本土資本の大手スーパーやドラッグストアなどの価格帯は本土とほとんど変わらないため。例えば牛乳1パック(1㍑)の値段。輸送費分を加味すると338~348円(九州管内メーカー商品)の小売値という。「一度、その値段で販売したところほとんど動かず、他社との兼ね合いから300円以下の298円に落ち着いた。大手ではまだ低い所もある。大手との価格競争となると無理をせざるを得なくなり、店舗を存続する上で厳しい判断を強いられる」(赤尾店長)。
競合する大手の優位性。マネージャー兼設備担当の大橋和雅さんは台風時の欠航を例にこう説明した。「大手は離島で販売できないなら矢印を変えることができる。離島→本土のスーパーでの販売という対応で。こちらはそれができない。長期欠航が続いた時、鹿児島港で輸送が止まってしまい、運航が再開されて届いたものは食品の傷みによって販売できなかった。それでも運賃は負担しなければならない」。
競合から価格転嫁できない実態。「本当は転嫁したい。でも特売品などはできない。経営を維持していくため生鮮品やそうざいに力を入れ、その売り上げでどうにかしのいでいる」(里社長)。負担が避けられない離島の輸送費。国政に何を求めるか。赤尾店長は「まずは数字をきちんと把握してほしい。どれぐらいかかっているのかに目を向けてもらいたい」、里社長は「物流費があまりにも高すぎる。改善に向けて食品などを運ぶ船会社に一律の助成ができないか。それによって取り寄せる側の負担が軽減され、結果的に地元の皆さんの食費負担を抑制できる。食は命に関わるもの。早急な施策を考えてもらいたい」。それぞれ提案する。
大橋マネージャーは付け加える。「納税の面からも行政の皆さんは地元の企業を育てるという認識を持ってもらえないだろうか。地元企業が経営を存続できることで地域は発展する、その判断で手を打ってほしい。船舶によって運ばれるものは食品だけではない。街をつくる建築資材、機械類もある。LCCの就航で航空運賃が安くなり多くの観光客が奄美を訪れるようになったように、船舶の輸送費が安くなれば離島でも生活がしやすくなる」。
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奄美を代表する地場産業である黒糖焼酎。製造し出荷する上でここでも輸送費の負担が重くのしかかる。
奄美大島酒造㈱の誉田範秀総務部長によると、原料のうち同社の場合、黒糖は地元産を利用しているが、コメはタイ米を共同仕入れしている県本土の組合から、一升(いっしょう)瓶は鹿児島市内のメーカーから、包装資材の中で一番運賃がかかるという段ボールも鹿児島市内の問屋から取り寄せている。
県本土からの輸送費(船運賃)は、最も額が大きいのがコメで1袋(30㌔入り)270~280円。瓶は一升瓶で1本あたり35~40円(それより小さい四合瓶などは半分)。段ボールは1枚あたり10~15円。いずれも県本土のメーカーには発生しない負担だ。こうした原料や資材を取り寄せ黒糖焼酎を製造。島外に出荷する場合は、この輸送費もかかる。「焼酎の価格に送料をプラスして、送料込みで問屋に卸している。取引している業者との値段交渉により、東北地方までは全国同じ送料」。誉田部長は説明する。
原材料や資材費の高騰により、同社は昨年11月、商品の値上げに踏み切った。輸送費については奄振交付金を活用したソフト事業の奄美群島農林水産物等輸送コスト支援事業の対象に加工品が加わったことで黒糖焼酎も補助品目だ。この支援について誉田部長は「年間いくらかかったという形で申告し、輸送費の補助がある。しかし多少の支援というのが実感。大量に仕入れることができない小規模メーカーは取引業者との交渉が十分にできず特に輸送費の負担が大きいだけに、規模に応じて支援の在り方を検討することも必要ではないか」と指摘する。
本土の企業とは異なる条件の不利性が離島にはある。「同じ土俵で勝負できる」ように環境を整え産業を育てていく取り組み。実現に向けて離島に特化した対策は、政治力によってこそ加速するのではないだろうか。

