鹿児島選挙区振り返る

奄美でも行動力あふれる選挙戦を展開した尾辻朋実氏。「頑張って!」の声に笑顔で応えた(14日、奄美市笠利町)

初当選の尾辻氏 自民議席奪い30万票獲得の圧勝
「草の根」、批判票取り込む
参院選

 猛暑の中で行われた第27回参院選は、21日午前8時過ぎに各党の議席数が確定した。非改選を含めた議席では、自民党は公示前から13議席を減らし、公明党と合わせた与党勢力は19議席少ない122議席となり、過半数を割った。衆議院に続き参議院も少数与党となったことで、石破政権はより一層視界不良となり、不安定な政権運営を強いられる。政権を支える自民党幹部・森山裕幹事長のお膝元、鹿児島選挙区(改選定数1)でも波乱が起きた。同選挙区が1人区になって以降、8回全て自民が議席を守ってきたが、事実上の野党統一候補に議席を奪われた。鹿児島でも自民への逆風を印象付けた選挙戦を振り返る。

 県選挙管理委員会の発表によると、同選挙区開票の確定時間は午前1時5分(開票率100%)。候補者別の得票は、初当選を果たし選挙区では鹿児島県初の女性国会議員の誕生となった無所属新人で立憲民主党推薦の尾辻朋実氏(44)が30万1026票(得票率41・85%)、次いで自民元職で公明党推薦の園田修光氏(68)が23万4893票(同32・66%)、参政党新人の牧野俊一氏(39)が17万989票(同23・77%)、政治団体「NHK党」新人の山本貴平氏(50)が1万2309票(同1・71%)の順。尾辻氏は園田氏に6万6133票差を付け、園田氏と牧野氏の差も6万3904票と6万票余りだった。

 この票差は選挙人名簿登録者数が県全体の4割弱を占める鹿児島市で変動する。トップ得票の尾辻氏と園田氏の差は4万票余りに対し、園田氏と牧野氏の差は1915票しかなかった。都市部に多い無党派層の支持を尾辻氏、牧野氏が集め、牧野氏が園田氏に肉薄したと言えないだろうか。奄美群島では12市町村全てで園田氏がトップだったが、同登録者数が最も多い奄美市では、得票順で園田氏(7950票)、尾辻氏(7300票)が7千票台で並び、その差はわずか650票だった。

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 自民党前参院議長の秀久氏の三女・尾辻氏。同党の候補者選考に漏れた後、1月に無所属で立候補を表明。立憲民主や連合鹿児島の推薦を受けたほか、社民党鹿児島県連の支援も取り付けた。公示直前には共産党が擁立を取り下げ自主的に支援し、野党勢力の候補者が事実上、一本化された。一方で尾辻氏は「秀久のむすめ」と書かれたたすきを着用するなど父親の知名度を生かし、保守票を切り崩すことに成功。「保守とリベラル」二つの層を取り込んだ。

 尾辻氏は「変えよう」とのスローガンを掲げ、食料品の消費税率をゼロにすることや、ガソリン税の暫定税率廃止などを訴えた。政党や労働団体といった組織の支援に頼るだけでなく、立候補表明以降の半年間、奄美群島の各島を含めて県内をくまなく回る「草の根」活動を展開した。集会やあいさつ回りを通し地域の人々の声を丁寧に聞き暮らしに寄り添う姿勢を示し、物価高対策などに有効な手が打てない政権への批判票を集めた。

 公示直前の6月中旬、奄美市で開かれた集会で尾辻氏はこう発言した。「コメが高い。物価が高い。自民党は『食料安全保障』と言っているが、安全保障なのに防衛費だけ青天井で巨額の予算となっている。農家の皆さんへの戸別所得補償をもう一度実現したい。サトウキビなどの第1次産業、中小企業などどちらも支えたい」「参院議員の任期は6年で、この間解散はない。じっくりと政策に取り組める。鹿児島全体の代表として政党も関係なく、右でも左でもなく鹿児島の国会議員として送り出してほしい。この国を今日より明日、明るい信じられる国を取り戻したい」。尾辻氏が掲げた政策や政治姿勢に多くの県民が共感し実現を期待して託した。無所属で活動していく方針だが、国会での活動や政策実行力を注視していきたい。衆院議員に比べて「距離が遠く、顔が見えない」という参院議員像を打破できるかを含めて関心を持ち続けたい。

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 返り咲きを目指した園田氏。報道各社の情勢調査で序盤から尾辻氏に「先行」を許し、劣勢を跳ね返すことができず支持が広がらなかった。選挙戦では衆参両議員を10年間務めた経験をアピール。参議院厚生労働委員長を務め、社会福祉施設の運営にも携わったことから、医療や介護、福祉政策を前面に訴えた。消費税減税が争点の一つとなったが、「財源となっている医療や介護の現場が大変な影響を受ける」と一貫として反対の立場を示した。物価高にあえぐ県民の認識とのずれは、社会保障の財源をめぐって介護の現場からの疑問の声とも重なった。

 今回の参院選で全国的に躍進し“台風の目”となった参政党。牧野氏の得票は県内でも躍進を鮮明にした。立候補表明後の選挙戦では奄美を含めて県内の地方議員や党員らがサポート。SNS(インターネット交流サイト)での情報発信だけでなく、街頭演説を重ねるなど有権者に直接政策を訴える取り組みも活発だった。

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 投票率に注目したい。県内の期日前投票率の最終結果は26・94%で、制度が始まった2003年以降、初めて20%を超え、過去最高となった。結果的に投票率を押し上げ、3年前の前回(48・63%)に比べ7・83ポイント増の56・46%となった。参院選選挙区で50%を超えたのは16年(55・86%)以来。3連休なかびの設定ということで投票率の低下が懸念されたが、期日前投票の利用が払拭(ふっしょく)につながった。

(参院選取材班)