急峻な斜面に広がる群生地でソテツ一つ一つへの薬剤散布を行う荒波産業の森田智也さん

道路沿いに植栽されたソテツの新葉には再びCASによる被害が及んでいる
ソテツシロカイガラムシ(アウラカスピス・ヤスマツイ=英語表記の通称CAS〈キャス〉)によるソテツ加害は、気温の上昇に伴い新葉にも及び、再生を妨げている。貴重な群生地が残る龍郷町安木屋場では町の予算(助成金)計上によって今年度も防除が行われており、厳しい暑さの中、急峻(きゅうしゅん)な斜面を移動しながら手作業を重ねている。
町企画観光課によると、観光振興費としてソテツ群落除伐助成金を計上し事業化。2023年度予算は2千万円で、うち1680万円を繰り越して24年度の秋から冬にかけての防除費用に充てた。24年度の事業費(1547万2千円)は年明けからの作業に活用。25年度も500万円を計上しており、さらに予算が必要な場合は補正で対応していく方針。
作業を請け負っているのが同町秋名の荒波産業㈱(西田重彦代表)。担当する森田智也さん(37)によると、安木屋場集落は集落背後の山も多くのソテツが生い茂るが、同社は群生地のほか、安木屋場トンネル側も対応。4人ほどで行っており、作業ではまず黄色くなり枯れた葉の伐採から入る。足場の悪い斜面のため、移動する足場を作ることが欠かせない。その後、薬剤の入った10㍑のタンクを両肩で担いで移動しながらノズルを手に持ちソテツの葉一つ一つへの散布となる。終了したソテツには赤いスプレーで幹の部分にマーキングし区別している。
群生地の面積は約15万平方㍍もある。夏場は朝8時から夕方5時まで行っており、水分補給など休憩を十分に取り入れ熱中症に注意しながら実施。重量のあるタンクを担ぎ山の斜面を移動する過酷な作業のため年配者には難しく、同社の若手社員が担当しているという。10㍑のタンクも30分ほどでまき終わり、水で薄めることも必要な薬剤補給へ山を下りたり上ったりしなければならない。
森田さんは「薬剤散布は天気の状態を見て実施を判断する。雨天時は散布しても効果が出ないため。曇りか、日差しが強い晴れ間に。山での作業はハブにも注意しなければならない」と話す。伐採、散布を繰り返す地道な作業だが、「昨年に比べると薬の効き目を感じる。新葉に勢いがある。CASの発生を食い止めたい。幼虫が葉を食い荒らすクロマダラソテツシジミの成虫が飛び回っているが、幼虫は薬剤が染み込んだ葉に付着するからだろうか。かじられた新葉を今年はあまり見かけなくなった」と効果を語る森田さん。作業の合間、喜びを感じる瞬間があるそうだ。山間部から集落側に向かう道路沿いには群生地全体を眺望できる展望所があるが、「車から降りて写真を撮る様子が見られる。ソテツは奄美の観光資源。きれいな葉の状態で残し守っていきたい」。防除に携わることに森田さんは誇りを感じているようだ。
一般社団法人日本ソテツ研究会の髙梨裕行会長によると、海外のデータではCASは気温22度以上ぐらいから産卵~成長というライフサイクルを繰り返す。奄美の場合12月ぐらいまで活動する可能性があるという。髙梨会長は「冬場は勢力が劣るが、暖かくなり湿気も増すと活発になり、新葉への被害が目立つようになったのではないか。安木屋場の群生地を実際に訪れたことがあるが、あの斜面で作業を重ね被害を防止しているのは頭が下がる思い。安全に十分注意しながら、貴重な群生地のソテツを守ってほしい」と語った。

