古仁屋高校のグラウンドで行われた試掘調査により奄美大島要塞司令部の建物の痕跡を示す地表面が出土した
コンクリートを含む玉石や瓦
瀬戸内町の中心・古仁屋市街地から大島海峡を臨む
瀬戸内町教委 古仁屋市街地で戦争遺跡調査
波穏やかな大島海峡に迫るように公共施設や民間事業所、商業施設、住宅などが建ち並ぶ瀬戸内町の中心・古仁屋市街地。現在は鹿児島県立古仁屋高校の敷地となっている奄美大島要塞(ようさい)司令部跡(以下、司令部跡)をはじめ、奄美大島陸軍病院跡、旧奉安殿(ほうあんでん)、古仁屋憲兵分遣隊跡、陸軍通信隊跡などの戦争遺跡が終戦までの歴史を伝える。町教育委員会は2024~25年度までの2か年間の文化庁の補助事業を活用して、同市街地での戦争遺跡調査を進めている。今月、夏休みの休暇時期を利用して古仁屋高校のグラウンドで試掘調査を実施。当時、司令部の建物があったとみられる地表面が確認された。
町教委(埋蔵文化財センター)によると、調査は文化庁の補助事業(町内遺跡発掘調査等事業)で進めており、今年度には報告書を作成する予定。司令部跡(陸軍部隊中心施設)や重砲兵連隊の本部跡でもある古仁屋高校、河川を挟んで隣接する官舎跡の高丘保育所でも試掘(保育所運営に支障がないよう24年度の年末年始)が行われた。
古仁屋高校での調査は生徒のグラウンド利用がない時期(今月12~15日)に着手。試掘調査前には位置情報が提供されるGPSを使って、司令部があった当時の写真と、現在の地図を重ねて司令部の建物があった場所を把握するとともに、地中レーダーで反応を探り、あらかじめ発掘する箇所を選定した。その結果、2㍍×2㍍の規模で3か所を試掘。調査を担当する鼎(かなえ)丈太郎主査は「今は古仁屋高校のグラウンドだが、当時、建物があった場所を狙って試掘した」と説明する。
重機も使いながら表層を掘り下げた結果、1か所はナイター施設のケーブル(配線)、もう1か所はグラウンドの排水が反応したようだが、その間で試掘した箇所からは約40㌢の深さから当時の地表とみられる面と、コンクリートの基礎があったとみられる部分、さらに柱穴(ちゅうけつ)の可能性がある遺構を確認。コンクリートを含む玉石や瓦といった建物に付随するとみられる遺物が出土した。現在のグラウンドの下層には排水のためにアスファルトを砕いた黒い層があり、その下の粘土層を掘ったところから確認された。
14日には考古学の専門家でもある同校の立神(たてがみ)倫史(みちふみ)教頭も立ち会い、視察するとともに助言を行った。鼎主査は「遺構については、まだ可能性の段階で断定できないが、司令部があった当時の痕跡をつかむことができたのではないか。司令部の建物跡が現在も古仁屋高校の敷地内に残っているのかを調査目的としていたが、試掘調査の成果から、当時の地表面を残しながらグラウンド整備が行われていた可能性がある」と語った。
住宅など建物が密集する市街地のため、今回の調査ではドローンは使用しなかったが、瀬戸内町教委では山地にあるため人が立ち入ることが難しい戦争遺跡の調査にあたり、ドローンによるレーザー計測(三次元立体図)、地中レーダー、GPS、三次元計測といった最先端のデジタル技術を活用している。今回の調査でも遺構が出土する可能性がある地点を事前に絞り込み、それを踏まえて掘削を行っており、調査人員や予算を多くつぎ込まなくても効率よく実施できる「近代遺跡を調べる手順を示す」(鼎主査)ことができたと言えそうだ。同町の戦争遺跡調査の取り組みには筑波大や鹿児島大などの専門家も関心を示しており、調査研究の連携が図られている。
また、こうした戦争遺跡を古仁屋高校生が案内するなど体験学習を通して同校と連携、郷土教育に役立てられている。戦後80年が経過し、戦争の記憶を伝承する語り部が減少する中、同町に身近にある戦争遺跡は悲惨さを伝え平和を考える上で貴重な存在となっている。
メモ
奄美大島要塞司令部跡 1920(大正9)年に陸軍築城部奄美大島支部が開設され、翌年、奄美大島要塞の構築工事が開始された。しかし21~22年に開催されたワシントン海軍軍縮会議で太平洋上の軍事施設について、現在ある以上の要塞化が禁止されたため構築工事は中止。23年、奄美大島要塞は未完ながらも、同司令部が開庁した。
27(昭和2)年には昭和天皇が司令部を視察するなど、陸軍の中心施設として機能していたが、戦況が悪化するにつれて徳之島と喜界島の飛行場防衛が重視されるようになると、終戦前の44(昭和19)年5月、21年間存続した司令部は閉鎖された。その後、司令部跡には奄美大島重砲兵連隊(2740部隊)の本部が置かれた。軍事関連構造物は、司令部を囲っていた壁が一部残り、壁には弾丸跡もある。
今回の調査で、当時の地表面とみられる面を確認したことから、奄美大島要塞司令部跡が地中に保存されていることが示された。

