奄美大島CAS被害調査

龍郷町が予算(助成金)を計上し業者による防除作業が行われているものの、再びCAS被害がほぼ全域に及んでいる安木屋場集落のソテツ群生地

 

 

 

「好転せずむしろ悪化」
現状確認・写真撮影
日本ソテツ研

 

 

 

 一般社団法人日本ソテツ研究会(髙梨裕行会長)は3~4日、奄美大島入りし、ソテツシロカイガラムシ(アウラカスピス・ヤスマツイ=英語表記の通称CAS〈キャス〉)による加害状況を調査した。2023年12月以来2年ぶりだが、薬剤散布で防除が繰り返されている群生地でも葉の立ち枯れがほぼ全域に及んでおり、「好転していない。むしろ悪化している」と受け止めている。

 奄美市笠利町にあるあやまる岬や龍郷町安木屋場の群生地などを訪れ、現状の確認と写真撮影を行った。春先には新芽が出て青々とした新葉に生育し、被害が抑えられて再生したように見えたが、気温の上昇に伴いCAS加害が繰り返されている。また、幼虫が葉を食い荒らすクロマダラソテツシジミ(チョウ)の成虫も飛び回っている。

 4日午前中は、安木屋場集落を訪れた。町の観光地となっている山の斜面の群生地のほか、集落居住地の背後の山にもソテツが生い茂る。いずれも青々とした葉から一変し、激害を示すように葉が黄白色になって枯れた状態。髙梨会長は「水分やでんぷんを失っているからだろう。あやまる岬ではソテツの幹がすかすかで、軽い印象を受けた。町が予算を組んで防除が行われている安木屋場の群生地は一部で青い葉が残っているものの、ほとんどの葉が立ち枯れた状態で、倒れている幹もある。被害を抑制できていない。絶滅することはないと思うが、自然に状況が好転するにはまだ時間がかかる」と語った。

 CASの防除の難しさについて「海外と異なり天敵がいないため、日本のソテツにとって『100対0』とも言えるほど圧倒的に対抗できない、これまで遭遇したことのないような害虫。越冬も可能で気温が低下しても地中や幹の中に生息し、気温の上昇で活発になり奄美では12月ぐらいまで活動するのではないか」と指摘し、「ソテツに効果があるとされている薬剤(登録申請済み)が認可されるまで、個人所有物のソテツに関しては現在推奨されている薬剤(マツグリーン液剤2など)を散布すると同時に、エリア内の株を一部でも保存し残していく取り組みを行政が中心となり進めてもらいたい。ソテツは生命力がある植物。薬剤の散布を繰り返しながら、子孫を保存していくことが必要」と提案する。調査に立ち会った大江強さん(69)は「被害が出るまで集落で群生地の景観管理作業を年に1回、行ってきた。隙間がないほどソテツがびっしり生えていただけに、当時と比べるとかなり数が減少している。貴重な群生地だけに何とか残ってほしい」と語った。

 なお、市町村等からの報告に基づき県がまとめた被害発生状況によると、今年6月末時点で奄美大島(奄美市、龍郷町、大和村、宇検村、瀬戸内町)、加計呂麻島・請島(瀬戸内町)、喜界島(喜界町)の6市町村で確認。市町村別の被害本数(黄変や枯死した本数)は奄美市5085本、龍郷町522本、大和村482本、宇検村15本、瀬戸内町224本、喜界町23本の計6351本。今年3月末時点の合計は6083本で、268本増えているが、中でも瀬戸内町(44本から180本増加)の被害増が目立つ。