プレートを作ってのキーホルダーなど立体的な造形物を制作できる3Dプリンター。子どもたちに人気だ
子どもたちの居場所づくりとして進められている二つの事業。奄美市名瀬の永田川を挟み銀座通り沿い、末広市場のほぼ向かいに建物はある。ビルの1階を使用、外側は清潔感あふれる全面ガラス張り。二部屋あり、広さは約120平方㍍。大広間は「PCルーム」と呼んでおり、テーブルの上にはノート型パソコンが整然と置かれ、まるでオフィスのような雰囲気だ。隣の部屋が「工作スペース」で、工作活動が楽しめるほか、ソファーなどでリラックスできるよう休憩スペースも確保している。
学校に通えない子どもたちを対象としたフリースクール活動の基本としているのが交流と体験活動。交流は、子どもとスタッフから始め、段階を経て子ども同士となる。なかには一人で過ごす子どももいる。林さんは語った。「まずは元気になること。子どもたちが興味や関心があることに寄り添う。ゲームもOK。スタッフも一緒にやり、そこから会話が引き出されることもある。子どもたちがリラックスして過ごせる。それが一番であり出発点」
「当事者目線が大切」としてスタッフは不登校の経験がある人のほか、「子どもと同じものが楽しめる」観点からゲームやサブカルチャー、パソコンに詳しい人を雇用。「デジタルのスキルがあり、しかも子ども目線に立ち同じように楽しめる。そんな人々の雇用を優先しているが、若い皆さんに絞られることもあり、人材が限られてしまう離島で探すのは難しい」。林さんは続けた。「大人は子どもに対し、こういう働き掛けがいいのではと思ってしまう。そうではなく子どもと一緒に普通に楽しんでほしい」。指導や教育ではなく、交流だ。
■引き算
「学びの継続」が求められる中で学習の方はどうだろう。スタッフの中には学習支援の担当者も存在する。だが、林さんは慎重だ。「最初から勉強もやってみたいという子もいるが、まれなケース。勉強する気持ち、これは子どもの中で重荷となっている。これを減らしていかないと勉強には向き合えない。学習は最後だと思っている」。心の中にある重荷。プレッシャーや罪悪感を指す。「重荷を減らす。これが不登校支援だと思っている」という林さんの「引き算の支援」との言葉が分かりやすい。
いかに減らしていくか。まず笑顔になれることが目標だ。それにはどうするか。子どもの興味や関心に寄り添う。これが、やはり答えとなる。「交流や体験活動を通して子どもたちとスタッフが信頼関係を築く。ここで過ごすうえで最も尊重したいこと。『何かあったら相談してね』とスタッフは伝えている。でも子どもたちが話せることは少ない。本音の部分は、なかなか話せない」。不登校の原因は一つではない。さまざまな要素が複雑に重なり絡み合っているのだ。
林さんは強調した。「長く、焦らず見守る。そんな手伝いができたらいい」。当事者同士の集まりである親の会でも認識し合ったそうだ。「焦らないこと」
進められているのは、より多くのさまざまな状況・背景を持つ子どもたちへ向けた事業だ。取り入れている体験活動はデジタル創作、調理実習(お菓子作りや昼食作り)、英会話交流(屋外活動)など。このうちデジタル創作は、これまでのフリースクール活動で、デジタル創作に興味を持つ子どもが多いことに気付いたのがきっかけとなった。「自分の好きなことに熱中し、表現する。それを理解してくれる大人がそばにいて肯定するだけで、子どもたちが元気になっていく姿を何度も目にしている」。そんな確信も機材がなければ実現しない。
■休眠預金
着目したのが一般財団法人・日本民間公益活動連携機構(JANPIA)の休眠預金活用事業。「『独創性』の格差を埋める デジタルテクノロジー×居場所創造事業」であり、応募したところ2回の審査と1回の面談を経て「ようやく審査をくぐり抜けることができた」と林さん。全国から35団体の応募があり、採択されたのはMINEを含めて5団体だけだった。助成期間は23年8月~今年2月末までで、助成額は3784万1千円に及ぶ。
助成によって創作活動体験用のデジタル機材(ハード面)が整っている。「子どもたちの使用では一番動く」という3Dプリンターは3台もある。イラストレーターや漫画家が使うような液晶タブレット、レーザーカッターもあり、こうした機材によって子どもたちはプログラミングや音楽、映像、イラスト、造形物の制作など興味・関心があることに挑戦できる。この活動によってMINEが目指す「子どもに寄り添う」ことが形になる。
子どもたちの利用にあたっては料金を取っていない。休眠預金活用事業の目的に「困難な人たちを支える」という側面により無償提供の条件があるため。「お金をかける習い事などになると、『ちゃんと行ってほしい』『何か身に付けてほしい』といった、どうしても大人の意向が入ってしまう。大人の期待を背負わずに来てほしい。行かないという選択があってもいいのではないか。子ども自身が決める『子どもの権利』。それを尊重したい」。無償を続けたいという林さんの思い。一方で、助成期間終了後も継続できるか不安もよぎる。

