甘い香りを漂わせる乾燥させたバニラビーンズ

輸入しているインドネシア産バニラを原料にした飲食品を提供しているカフェ。空港から近いこともあり、多くの観光客も訪れる人気店だ
苗の植え付けから開花まで3年かかり、4年目の現在は収穫した実から良質な香り成分を引き出すため実験中だ。来年には5年目を迎える。販売していく「奄美産バニラ」の前提にするのは「質のいいもの」、その間の収益をどうするか。林さんが経営する合同会社では、高品質なインドネシア産バニラを仕入れ日本全国に販売している。また、和野集落の高台に約2500坪の土地を購入し、家族連れで楽しめる観光農園にするとともに、23年10月にカフェをオープンさせた。そこでインドネシア産バニラを実際に使い飲食を提供している。
並行して取り組んでいる二つの事業。林さんは理由をこう説明した。「世界でも最高品質に近い」とされるインドネシア産を輸入して販売することで、▽奄美産のバニラビーンズを買ってもらえる顧客を先に見つける(販路開拓の先行)▽販売するだけでなくカフェで実際に使用しスイーツや料理、ドリンクにすることで商品づくりのノウハウを蓄積する。「バニラを購入するのは、ほとんどがプロの事業者(パティシエ、フレンチのシェフ、香料メーカーも)。どういう使い方をしているか、どんな課題に直面しているか、自分たちも追体験することで初めて理解を深めることができる」
バニラビーンズの品質の決め手はやはり香り。インドネシア産という「いいもの」を使うことで知見も持つことができ、奄美産が完成した際の比較が可能だ。「いいものができた」「いや、まだ香りが足りない」といった判断ができる。「バニリン以外の香味成分も複雑に重なることで、立体的な香りとなり、ここで初めていい香りが誕生する。学術的な専門機関、地元・笠利町の篤農家といろんな皆さんの協力・支援でここまで来た。感謝の気持ちを忘れず、商品化に向けたこれからの一歩を着実に踏み出していきたい」
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品質のいいバニラの生産、売り先確保のめどが立ったら、量の増産にも目を向ける。現在の農園の面積(20㌃)増と同時に、新しく農業を始める人などの取り込みだ。「私たちだけでは産地形成は難しいと思う。加工・販売は我々(合同会社)が担い、契約農家から収穫した実(原料)を提供してもらう体制にすることで少しずつ産地を形成していきたい。これまでの経験により収穫までの栽培指導はできる」
林さんによると、笠利町での栽培は気象条件に恵まれており、害虫被害など病気も出ていないという。「ラン科の植物だけに直射日光は苦手。ハウスの骨組みに寒冷紗を被せるだけで十分。畝にバガス(サトウキビの搾りかす)を敷いているが、これは土がむき出しだと乾燥が進むため。日よけや棚といった栽培環境が必要となるため、サトウキビやタンカンなどの作物の代替にバニラビーンズはならないと思う。新しく始める方には複利的な作物として選択していただくことになるのではないか」。台風など気象災害による農業経営への打撃を避けるため、リスク分散の一つとしての取り組みだ。「奄美の農業に貢献したい。会社名で示したように、奄美で新しい価値を創り出したい」。共に栽培していく農家を期待しながら林さんは決意を込めた。
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アフリカの島国マダガスカルやインドネシア、メキシコなどが産地として知られるバニラ。高級品の取引価格は1㌔㌘あたり数万円に上るため「銀より高い」と表現されたこともある。一方で、こうした海外産の輸入量は林さんによると年々減ってきているという。40~60㌧ぐらいだ。価格だけでなく輸送費の高騰、円安の進行もある。そこで国産量産化へ異業種参入の動きがあり、九州電力もその一つ。専門商社からメキシコ原産種の苗500本を購入して福岡県内のビニールハウスで24年秋から試験栽培を進めており、25年には成長した木からバニラビーンズの生産にも成功した。安定的に流通させることができれば新たな収益源に育つ可能性があるとの判断からの取り組み。商用化に向けて生産を効率化する技術を開発し特許も取得している。
「高品質」を目指す方向は、林さんの挑戦とも重なる。商品化にあたっては海外産だけでなく国産との競合も視野に入れなければならない。それでも産地に近い温暖な気候、世界自然遺産に登録された島の魅力や栽培地の環境は奄美産の付加価値でもある。生産だけでなく販売面で市場を意識した林さんの農業経営は、着実な成長という可能性を感じさせる。
(徳島一蔵)

