世界自然遺産登録5周年を迎えた、特別対談第2回。富士山やエベレストでのごみ拾いなど自然保護活動へも力を入れている野口健氏、一方、つじ立ち後のごみ拾いを徹底する保岡宏武氏。生態系の乱れについての向き合い方、世界遺産としての島の維持活動についてなど、二人の会話は、ますます熱を帯びていった。
保岡 野口さんは山でのごみ拾い活動をされていますが、どんな経緯があったのですか。
野口 初めてエベレストに行ったのが1997年のこと。当時、エベレストはごみだらけでした。それらは主に80年代の登山隊の捨てたものだったのですが、日本隊のごみも多かった。外国人の登山家から「お前たちはエベレストをマウントフジのようにするのか」と言われました。そう言われたら、エベレストをきれいにしないわけにはいかない。どこかで自分は日本を代表してエベレストに行っているとの認識もありましたから、奮起したわけです。
保岡 日本人の良心・良識を体現いただきありがとうございます。エベレストをマウントフジのようにするというのはどういう意味ですか。
野口 それまで私は、富士山には雪山のトレーニングを行うために冬にしか行ったことがなかったのです。初めて夏の富士山に登ったら、当時は登山道にごみがたくさん落ちていたのです。さらに、樹海には数千本のタイヤや、注射器等おびただしいごみがありました。実際、富士山は、あの頃世界で最も汚い山の一つだったのです。樹海への不法投棄が当たり前の状態で。
保岡 今の富士山にはそんなイメージはありませんね。
野口 そうでしょう。富士山清掃のスタートからかれこれもう26年目になりますが、あと数年できれいになりますよ。
保岡 素晴らしい。私も規模は全く違いますが、つじ立ちの際、必ず周囲のごみを拾って帰ります。中には売名行為と揶揄する人もいますが、構いません。つじ立ちする政治家が全員付近を掃除したら日本中がきれいになる(笑)。
野口 僕も散々言われました。売名行為ですって答えていましたよ(笑)。でも富士山の登山道のごみがなくなると、登山客のマナーもどんどん良くなっていきました。
保岡 確かにそういう影響はあるでしょう。訪れる人のマナーも大事ですね。
野口 小笠原諸島が世界遺産登録される際、僕は東京都民だったこともあり、石原さん(石原慎太郎=当時の都知事)から依頼され、登録の環境整備を手伝った。一日100人入島制限などを行い、飛行機での入島をNGにしました。青島さん(青島幸男=元都知事)時代に、飛行場を造ろうとしたのを白紙に戻し、質のいい観光客だけに絞ったというわけです。
保岡 観光客には来てほしいが、どのように自然環境を残していくかが課題なのは間違いないですね。奄美も過去、ハブ退治のために入れたマングースが増え過ぎてさまざまな問題がありました。2024年にマングース根絶を達成しましたが、奄美大島ほどの規模の地域では、世界的な快挙とされています。ところが、今度はアマミノクロウサギを保護したことがきっかけで、その個体が増え、農作物の食害が発生している。世界遺産地域が民家と隣り合っているだけに、共生という課題はあるが、人が手を入れると、またどこかにその影響が出てちぐはぐになる。
野口 僕は、外来種以外のものには、基本的に人が手を掛けないこと、それが望ましいと考えます。絶滅危惧種以外は、自然の成り行きに任せるぐらいの覚悟であるべきだと。人が意図を持ってやると駄目な気がします。生態系のバランスが崩れるのです。
保岡 できる限り自然のままに。また観光客もできるだけそういう意識の方に来てもらった方がいいのかなぁ。
野口 そう。小笠原は結局飛行場建設を断念。25時間かけて船でしか行けない。高級なエコツアーとなっているからこそ、自然が守られているのです。そうした観点から、富士山の世界遺産登録について、当初は、僕は大反対しました。ところが、それがきっかけとなり、意外なメリットも生まれた。一気に観光客が増えたことで今まで心の距離があった山梨県と静岡県が、共に一つの山をどう守るかをテーマに団結。このままだと大変と危機感を持った山梨県側が入山料を設置。それに静岡県も足並みをそろえた。
保岡 それは興味深い話です。奄美でも費用負担を誰がするかということも含め、自然環境を守っていく政策を考える必要があります。
野口 世界遺産になったことで、それを守っていく義務が生じます。屋久島で地元の子どもたちと登山をしました。ところが、ほぼ全員の子どもが島での山登りが初体験だった。驚きでしたね。
保岡 近いほど、その偉大さ、重要さに気付けないことってありますね。
野口 自分たちの自然を体験することは、とても大切です。小笠原に、本土の子どもたちを連れていったとき、彼らは大自然に大騒ぎでした。その姿を見た島の子どもたちが、初めて自分達の住む「島」の価値に気付けた、そんな瞬間だったのではないかと思っています。
保岡 私は、島の自然や文化、それが評価された世界自然遺産登録は、神様からのギフトだと思っています。それらを島の外だけでなく、中で暮らす島民へどう伝え残していくか、それはとても重要です。そういった活動の一端を担うために、私たちの世代は、今この瞬間を神様から、未来から預かっているんだと感じています。
野口 ギフトですか。いいですね。奄美の子どもたちも、本当にすごい所に住んでいるのだと胸を張ってほしいですね。(3回目につづく)

