世界自然遺産に登録された奄美大島の照葉樹林の森。登録から5年を迎え、外来種駆除による在来種の回復など成果が出ているものの課題はまだ山積している
「生息する山の中に入りハブを捕獲する。問題点として二つある。まず林道を通ることで在来種のカエルやクロウサギ等がひかれるロードキルが発生する。これが一番の問題。ナイトツアーの場合、動物を探しているだけに車の速度はそれほど出ていない。ところがハブ捕りはかなりのスピードで走行している。ロードキルの増大を招いている」「もう一つは生態系のバランスの崩れ。ハブはいろんな生物を食べることから森の生態系の頂点に位置する。捕獲によっていなくなると例えば在来のネズミ以外(クマネズミなど)が極端に増えてしまう、といった影響が出る。生態系を守る上で問題。人の居住地周辺に出没するのを捕獲は当然のこと。山の中に入って捕ることはやめるべきだ」
――ロードキルでハブ捕りも起因することが理解できた。行政機関に提案したいことは。
「瀬戸内町や宇検村といった奄美大島南部の海沿いを走っていると自然の海岸線が人工的な構造物(護岸整備)に置き換えられている。世界自然遺産の島で本当に必要なのかと思ってしまう。森だけでなく海の環境について再考していくためにも17年の指定から来年には10年となる奄美群島国立公園の範囲を見直すべきではないか。海岸線の護岸、森では生物への影響が大きい間伐が気になる箇所があるだけに改善に向けて国立公園区域の拡張を希望している。結構重要な森が国立公園に入っていない所もある。観光客は奄美の自然を求めて来島しているだけに、自然を守るという方針を基本にしてもらいたい」
――外来種問題について考えたい。マングースのように奄美に持ち込まれるものに視点が置かれてきたが、奄美から在来種が持ち出されることによって逆に外来種問題の原因となっているようだ。どのような問題が起きているのか。
「八丈島(東京都)ではアマミサソリモドキが繁殖している。また、東京湾岸の公園ではリュウキュウツヤハナグリ(光沢があるコガネムシの仲間)が大量発生している。奄美からの持ち出しによって、こうした外来種問題を国内で引き起こすことに危機感を覚えるべきだ。奄美空港では条例で規制されている動植物の持ち出しがないかチェック体制ができている。しかし船便、郵便物や宅配物などはできていない」「持ち込まれるものも当然警戒しなければならない。一番気になるのはヤマビルだ。本土では吸血被害を与えるヒルが増えていると聞く。奄美の森のいいところはヒルがいないこと。安心して歩ける森を守るために本土からの持ち込み・侵入を防止する必要がある」
――外来種問題ではノヤギもある。人が飼っていたヤギが野生化したノヤギに関しては奄美大島5市町村に認められた「ノヤギ特区」がある。この特区について意見を聞きたい。沿岸部だけでなく、内陸部の奄美自然観察の森や湯湾岳などでも見られるようになり、森林の植物相への影響が懸念されている。
「ノヤギ特区により狩猟鳥獣の一つに加わったが、問題だと思うのが捕獲後の処置(と畜場法が適用されるため、イノシシやシカのようにと畜場以外の場所で処理できず)。そのまま流通に乗せることができないだけに、これでは利便性が良くない。せっかくノヤギ特区にしたのに減少につながっていない。イノシシと同じ処理方法で食肉として扱われるよう制度(ノヤギ特区)の見直しを行政に考えてもらいたい」「駆除策は、ノヤギによる食害から生態系の保護を図るため対策が進められている小笠原の事例を参考に方法を研究できないだろうか。人知れず増えるというイメージ。ノヤギは捕獲が容易ではないだけに外来種として厄介だと思う。実際の食害は、アマミエビネなど希少種の食害状況から『ノヤギによって食べられたと思われる』という状況証拠しか現在のところない。しかしすでに海外を含めていかに悪質か証明されているだけに本腰を入れて取り組むべき外来種だ」
「このほか二つを提案させていただきたい。まず池や沼といった水辺(流れがある川ではなく止水)の環境。以前は水田が池や沼の環境を代替していたが、奄美だけでなく琉球列島全般で水田の減少、湿地の埋め立てが進み水辺が減っている。それにより生息する在来のトンボ類やゲンゴロウなど水生昆虫が壊滅的な状況。水辺の生物多様性の保全がないがしろにされている。もう一つはネコの適正飼養を行政は積極的に進めているだけに、室内飼いの徹底と同時にネコが飼える住宅をもっと増やせないだろうか。公営民営含めて住宅内で飼うことが認められる方向に進んでほしい」
――世界自然遺産に登録され5年が経過しても課題山積の状況だ。根底にあるのは問題意識の低さだろうか。
「在来種の回復が示すように、以前に比べるとだいぶ良くなっている。特に環境教育や探究活動などによって子どもたちの関心の高さや知識には驚くことがある。出前授業の講師として学校を訪れる機会があり実感できている。ところが、こうした子どもたちが進学で島を出てしまうとそのまま戻ってこない。世界自然遺産の島であり、自然を守るということが仕事として確立できるようもっと充実してほしい。それによって、いったん島を出た子どもたちが大学などで専門的に学んだ知識や技能を古里に還元できる。またインターンのような形で自然関係の職種に本土の若い人たちが携わる仕組みができたらと思う。若い人たちの存在は島の活気につながる」
(聞き手・徳島一蔵)
もの静かな語り口。こちらの聞き方の不十分さからだろうか。最初は言葉が続かなかったものの、変化が生じたのが現状についての意見を求めたとき。語り口は変わらないが、長年にわたってのフィールドワークの積み重ねとそれに基づく知識の豊富さ、さらに国内外の先進事例の把握に基づき様々な分野に関する具体的な方策が語られた。実行へと移されるかは地元市町村をはじめ各関係機関しだい。そこに「先進事例を学ぶ」あるいは「取り入れる」という姿勢があれば現状は変わるだろう。

