現場から 「永田町の住人」からの脱皮

鹿児島間の定期フェリーなど船舶によって運ばれる貨物。輸送費の軽減は離島住民の暮らし、企業の存続のためにも必要だ(資料写真)

離島課題に向き合えるか
輸送コスト負担切り込みを

 「奄美群島は物価が高くその是正に取り組みます。また、台風などの自然災害のたびに生鮮食料品がなくなる事態をなくしていきます」「奄美の皆様の生活に欠かせないフェリーや航空路線の便数維持と交通費負担の更なる軽減を強く訴え続けます。島内の食料、ガソリンを含む生活必需品全てに上乗せされる輸送コスト対策を国に働きかけます」

 地元自治体のトップが決まる市町村長選以外の選挙(知事選や国政選など)では、奄美新聞社は候補者の皆さんに奄美群島の有権者に向けた公約を依頼している。その内容によって候補者、あるいは陣営がどの程度奄美の実態を把握しているか判断できる。最初に示したのは昨秋の衆院選で鹿児島2区の当選者、次は1週間前に投開票があったばかりの参院選で鹿児島選挙区の当選者が打ち出した奄美向け公約のうち、物価高や輸送費負担に関する部分だ。

 公約を掲載するだけでなく、来島時に集会や街頭演説での主張も紙面では紹介した。一方で今回の参院選では二つの課題(物価高、輸送コスト負担)に対する声を拾った。これまでの取材不足を痛感させられたのが、離島の物流がもたらす負担に常に向き合っている地元企業の声だ。

 毎日の暮らしに欠かせない食料品。年金に頼る高齢者は特に深刻だが、私たち消費者は少しでも支出を抑えるため、チラシなどを参考にしながら値段を吟味し他店より安い小売店に足を運ぶ。その逆である売り上げ増へ消費者に足を運んでもらいたい小売店側。取材した奄美市内に複数の店舗を持ち、国内大手、県内大手と競合する地元企業のこんな声が印象的だった。「本土資本の大手スーパーやドラッグストアなどの価格帯は本土とほとんど変わらない。そのため食料品の値段では輸送費(船舶による鹿児島間の海上輸送費)分を追加できない。追加してしまうと売れなくなってしまう。輸送費を価格転嫁できない実態が経営の圧迫につながっている」。

 2区選出の衆院議員が国会の委員会で離島に特化した物価対策の必要性を質問した際、国土交通省側は答弁で離島の物流効率化に焦点を当てた調査に取り組んでいることを明らかにした。具体的な内容を知りたくて同省の担当者に話を聞いた際、この発言を覚えている。「離島の物価は人口の規模や大手小売店の立地など各離島が置かれている状況によって異なる。全国の離島で言えることだが、大手小売店が進出している離島では、本土との価格差が小さい品目が多くみられる」。これは奄美市の現状とも共通する。ただし全体的に俯瞰(ふかん)するだけでなく、大手との競合から価格を上げることができない小売店の経営の存続にも目を向けるべきではないか。

 地元企業からは輸送費負担の軽減策として「物流費があまりにも高すぎる。改善に向けて食品などを運ぶ船会社に一律の助成ができないか」との提案があった。輸送費に関する施策では奄美群島振興交付金事業を活用した農林水産物等輸送コスト支援事業がある。対象に加工品が加わったことで黒糖焼酎も補助品目になったが、取材した酒造会社からは「多少の支援というのが実感」という声が聞かれた。輸送費負担の軽減化、奄振交付金による支援の充実へ新たな制度の構築や予算枠の拡大は必至ではないだろうか。

 頻繁に来島し奄美に関する問題を国会で繰り返し取り上げ、陳情の窓口となっている2区選出の衆院議員と異なり、参院議員の場合、県全体の代表だ。だが、自民党の公認候補らを破り初当選した尾辻朋実氏は「新しい参院議員像」を貫いてもらいたい。これまでのような当選後はほとんど奄美群島入りすることはなく、離島の実態を掘り下げ政策課題として取り組むこともない「永田町の住人」に徹するような従来型の参院議員像から脱皮してほしい。

 尾辻氏は選挙前の5月、来島の際にこう語っている。「2人しかいない鹿児島県の参院議員のうち1人ぐらいは右だとか左だとか関係なく『鹿児島全体の皆さんの話を聞きに行き、頑張ります』という国会議員がいた方がいいのではないか。そんな思いで歩みを進めていきたい」。参院選を受けて、新たな参議院議長などを選ぶ臨時国会は8月1日に召集される見通しだ。尾辻氏の参院議員としての活動もここから始まる。離島の課題に向き合い、公約でも掲げた輸送費負担問題に切り込めるか。期待を込めて注視したい。
(徳島一蔵)