南の島の行政マンたちの挑戦をまとめた著書を手にする東美佐夫さん。市民還元のための政策に携わる魅力が伝わる
旧名瀬市の職員として採用され、奄美市副市長などを歴任した東美佐夫(ひがし みさお)さん(68)が南方新社から『島づくり、まちづくり 南の島の行政マンたちの挑戦』を出版した。当時の市役所幹部の理解により各課のセクションを越えた話し合いを重ねて職員が政策に参画、また海外を含む視察によりさまざまなアイデアを吸収し、その結果が事業の提案や景観づくり全国受賞などにつながったことを綴っている。奄美市公式キャラクター・コクトくんとロビンちゃんの会話方式で読みやすくまとめており、地方公務員のやりがいが伝わる内容だ。
第27回自費出版文化賞入選(地域文化部門)の『島口むんばなしⅠ・Ⅱ』、共著『リーディングス 外から見た奄美諸島』(いずれも南方新社)に続いて3冊目の著書。きっかけは全国的に取り上げられている「若者の公務員離れが進んでいる」という現状への危機感。魅力の低下、残業の多さ、忙しさなどが理由として挙げられているが、「過疎地や人口減少が大きい地域にとっては大変な事案」として、東さんは「現役を退いた地方公務員にとっては、なぜか不思議な現象。官民問わずどの仕事もやりがいはあるが、公務員も捨てたものではない。向き合い方によっては、面白さは倍増する」と記す。
内容は、▽第1章=職員の知恵を形に(南の太陽(ティダ)まちづくりに向けて、職員誰もが企画立案者、島しょ圏のモデル自治体を目指して)▽第2章=奄美群島特別措置法(奄振法)の歩み(奄振法制定の意義・法改正の変遷、幕末から近世〈明治・大正・昭和初期〉の奄美経済、奄美の魅力を力に変える―主要施策の経緯と背景―)▽第3章=知恵のチャレンジ▽第4章=遊びも文化の伝承―で構成。舞台となっているのは1985年頃から2000年代にかけて。南の島の人口約5万人の自治体職員がまちづくりに取り組んだ姿と、その後の後輩たちの島づくりの挑戦を描いている。
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1982年旧名瀬市採用後、国の省庁出向では第一号として農林水産省での勤務を経験し、東京事務所も経験した東さんはシンガポールなど海外、国内は沖縄などさまざまな先進地を視察。「外を知ることによって知識が広がり、小さな島で暮らしていても気持ちを大きくすることができた」と振り返る。視察は市役所職員だけが行うのではなく、観光や商店街など民間の関係者も加わった。
こうした視察、横断的な職員の話し合いにより職員誰もが企画立案者に。日頃考えている地域づくりのアイデア、遊びの中で生かされる知識や知恵など発表する場として活性化研究会が発足し、発表内容は「活性化ニュース」として庁内向けに紙面で報告された。「横断的な話し合いや先進地視察を重ねることができたのは当時の上司の理解が大きい。まちづくりについて外部の専門機関に頼るだけではなく職員自らアイデアを出す、それによって市民に還元していく姿勢こそ公務員として大切ではないか」と東さん。具体化した提案事業は奄美観光公社設立、福祉村構想(看護福祉専門学校誘致)、スポーツアイランド構想、沖縄交流(経済・観光・行政)、多目的屋内練習場など。
一方で財政の悪化から「第2の夕張」とされたことも。職員間で情報共有することで気持ちを引き締め健全化へ取り組んだが、夕張を教訓にした当時の市長(平田隆義さん)のエピソードも紹介している。「財政再建のお手本になる書籍がある。関係職員に配布してほしい」としたのが、江戸期の米沢藩で財政や藩の立て直しに奔走した上杉鷹山(うえすぎようざん)を取り上げた本『上杉鷹山の経営学』。東さんの著書ではコクトくんの言葉を掲載。「この本の副題は『危機を乗り切るリーダーの条件』なんだよ。合併時の難局を職員と市民がともに乗り切ったモデル事例ということかな」「その背景には当時の平田市長の想い(本の考え)が生かされたのだ」
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第2章奄振法の歩みも貴重な資料だ。米軍統治下からの復興だけでなく、それ以前の奄美の実態(1935〈昭和10〉年を初年度とする大島郡振興計画)を考慮し奄振法が議員立法で創設された経緯を説明。また、法改正の「歴史的転換」として挙げているのが交付金化。格安航空便の就航につながり、奄美大島の入込客は増加で推移した。
さまざまな政策の裏話を綴ったコラムも。「夜の政策談義、歴史は夜作られる?」では懇話会、談話会、さらに屋仁川(飲食店街)での出来事も紹介している。
あとがきで「まちづくりに終着点はない。『行政は絶えず継続するもの、だから過去を知り未来を描くものだ』、これも先輩から教えてもらった言葉だ」と記述。南の島の一自治体の物語としているが、東さんは「ぜひ役所(役場)の幹部クラスの皆さんに一読していただきたい。職員のアイデアを取り入れる姿勢の大切さ、後輩を育てる気持ちになっていただければ」と語った。
著書『島づくり、まちづくり』は奄美市内の書店でも取り扱っている。定価は本体2500円+税。問い合わせは南方新社電話099・248・5455まで。

