人生を旅するような映画

「TOKYOタクシー」の宣伝ジャンパーを着て話す房さん=東京・築地の松竹本社にて=

倍賞千恵子と木村拓哉主演の「TOKYOタクシー」のフライヤー

『TOKYOタクシー』プロデューサー・房俊介さん
山田洋次×倍賞千恵子
60年以上の「ドゥシ」もう一度スクリーンへ

 奄美市名瀬有屋町のシネマパニックで上映中の松竹創業130周年記念作品『TOKYOタクシー』(山田洋次監督)は、日本アカデミー賞で優秀作品賞をはじめ10部門を受賞した話題作だ。プロデューサーを務めたのは、瀬戸内町古仁屋出身の房俊介さん(41)。山田監督との出会い、そして作品に込めた思いを聞いた。

 「山田監督が“若い世代に譲る”という考えで辞退されているため、今回は10部門の受賞となりました。それでも優秀作品賞をはじめ、たくさんの賞をいただけたのは本当にうれしいですね」

 倍賞千恵子さんの主演女優賞、蒼井優さんの助演女優賞、中島瑠菜さんの新人賞と、俳優陣の評価にも顔をほころばせる。

 なかでも房さんが特別な思いで語るのが、山田監督と倍賞千恵子さんの関係だ。

 「お二人がコンビを組んで60年以上。これはもう、奄美の言葉で言えば“ドゥシ(同志)”ですよね。実は前作『こんにちは、母さん』の撮影後、監督と次の企画の話をする中で、“このお二人のタッグを、もう一度どうしてもスクリーンで見たい”と、何度もお願いしたんです」

 その願いを後押ししたのが、フランス映画『パリタクシー』でも使われた「LEDウォール」という最新の撮影技術だった。270度の壁と天井に映像を映し出し、タクシーの中にいながら、実際に街を走っているかのような映像を撮影できる方法だ。

 「これなら、山田監督のご負担も減るし、撮影も現実的になる。監督も“できるかもしれない”と、とても前向きになってくれました。当時93歳ですよ。それでも熱心に準備をして、現場では長時間にわたって丁寧に演出される。その姿に、俳優もスタッフも自然と引っ張られていくんです」

 LEDウォールに映し出される神宮外苑のイチョウ並木や皇居前の松林の風景は圧巻で、観る者を、まるでタクシーの後部座席に座っているかのような感覚に誘う。

 房さんと山田監督の出会いは31年前にさかのぼる。10歳の時、『男はつらいよ 寅次郎紅の花』(1995年)の撮影で、山田組の俳優、スタッフが実家のホテルを訪れたことがきっかけだった。

 「その姿に憧れて、気がついたら山田組の一員になっていました」

 2009年から山田監督の自宅に住み込みで働き、『おとうと』から山田組に参加。『キネマの神様』以降は、プロデューサーとして作品づくりの中核を担っている。

 『TOKTOタクシー』について、房さんはこう語る。

 「東京や横浜の景色が本当にきれいで、観光旅行をするような気持ちで観てもらえる映画です。でも、それだけじゃなくて、観た人が人生そのものを旅するような映画になっていると思っています」

 昨年、クランクアップ後には、山田監督が6年ぶりに加計呂麻島を訪れ、徳浜や渡連の海で静養したという。「奄美の自然は、やっぱり特別なんでしょうね。1か月後には、また来られたくらいですから」と笑う。

 今後については、「山田監督や、鹿児島出身で蒼井優さんの夫役を演じた迫田孝也さんを招いて、奄美で舞台あいさつ付きの上映会もやりたいですね。撮影の裏話もぜひ聞いてほしい」と、次の夢も語ってくれた。
 (永二優子)

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 『TOKYOタクシー』は、今月15日までの土・日・祝日にシネマパニックで上映。
 一般2000円、学生1500円、3歳から中学生まで1100円、高校生1100円、シニア1200円。

 問い合わせはシネマパニック(0997・54・3219)。

あらすじ

 毎日休みなく働いているタクシー運転手の宇佐美浩二(木村拓哉)。娘の入学金や車検代、家の更新料など次々とのしかかる現実に頭を悩ませていた。そんなある日、浩二のもとに85歳のマダム・高野すみれ(倍賞千恵子)を東京・柴又から神奈川・葉山にある高齢者施設まで送るという依頼が舞い込む。最初は無愛想だった2人だが、次第に心を許し始めたすみれは、「東京の見納めに、いくつか寄ってみたいところがあるの」と浩二に寄り道を依頼する。東京のさまざまな場所を巡りながら、すみれは自らの壮絶な過去を語り始める。たった一日の旅が、やがて2人の心を動かして行くことになる─―。