八月踊り人類学研究

「笠利町宇宿・城間・万屋における八月踊りの人類学的研究」と題した卒業論文を書き上げた京都大学総合人間学部の稙田理人さん

「お世話になった皆さまへ研究成果をお伝えしたい」と開いた報告会。参加者と共に(提供写真)

京大・稙田さん、卒論にまとめる
「懐かしさ」「太鼓の音」 歌い踊る背景
笠利町3集落 ローカルに色濃く伝承

 京都大学総合人間学部5年で文化人類学専攻の稙田理人(わさだ・りひと)さん(24)=大分県出身=は、奄美市笠利町の宇宿・城間・万屋集落の八月踊りを調査研究、撮影した映像やインタビューを基に卒業論文を書き上げた。「人はなぜ音楽によって歌い踊りたくなるのか」研究しているが、八月踊りについては「懐かしさ」と「太鼓(チヂン)の音」が背景と考察する。

 秋田県出身で歌掛けを研究している教授の下、民謡や踊りに興味がある稙田さん。大学の図書館にあった中原ゆかりさんの著書『奄美の「シマの歌」』を読み感銘を受けたという。著書では、県指定無形民俗文化財となっている「佐仁の八月踊り」を取り上げていた。

 伝統行事として八月踊りが行われるのは旧暦8月のアラセツ(新節)。稙田さんは2024年9月に奄美大島へ。訪れたのは宿泊先の関係で佐仁集落ではなく、歩いていけた宇宿集落。初めて八月踊りを見て独特の歌やリズムだけでなく「人々のパワー、楽しそうに踊っている」のがとても印象に残ったという。翌年、25年5月からは笠利町に半年間滞在。人類学的研究として3集落の八月踊りを調査。アラセツの本番だけでなく練習、奄美まつりなども対象にした。

 研究方法は動画解析ソフト「ELAN」を使い、撮影した映像の歌いだしや太鼓の打点を記録。これを表に起こし、図表化して掛け合いのリズムを可視化。太鼓や手拍子の間隔を計測し、BPM(テンポ数値)を算出してグラフ化することで、最初はゆっくりだったテンポが加速する変化を分析した。歌詞については資料を参照に標準語訳も示した。

 歌い踊る背景について稙田さんは「歌については『グイン(奄美のシマ唄独特の裏声)』によって郷愁を感じる懐かしさから、踊りは太鼓の音によって引き出されるのではないか。太鼓の音が聴こえてくると、踊りに行きたくてたまらなかったという話も聞いた」と語る。卒論では「太鼓の音を通じて、『ナツカシイ』八月踊りの時間を思い出し、連想される歴史的なイメージが作用して、没入体験がさらに強化されている」とまとめている。

 稙田さんは3集落の八月踊りについて「言葉、踊り、テンポと集落ごとに違いがあり、ローカルに色濃く伝承されている。また移住してきた皆さんも積極的に参加されており、子どもたちも継承している」ことから、あり方の変化も期待されるという。「卒業論文を書き上げるにあたって3集落の皆さんにはとてもお世話になった。研究の成果をお伝えしたい」として12日夜には、宇宿貝塚施設の管理運営などをしている奄美文化財サポーターDEIDEIDEIが主催し、宇宿生活館で研究報告会を開催。約30人が集まった。

 「集落の皆さんはとても親切で協力的で、さまざまなことを教えてもらった。『研究してくれることは誇らしい』と語っていただいた言葉を忘れることができない」と稙田さん。23日には大学の卒業式があり、4月から東京で就職するという。「今年もアラセツの頃には訪れ、八月踊りを見に行きたい。皆さんへの感謝を込めて研究内容を本にすることができたら」と新たな目標を語った。