「共生」を考える 希少種による農作物被害の現場から 9

アマミノクロウサギによるタンカンなどへの食害について意見を出し合った右から平井孝宜さん、元井雄太郎さん、前山大輝さん(奄美新聞社で)

 平井孝宜さん(44)=平井果樹園園主、就農20年目、名瀬本茶地区でタンカン・津之輝を栽培(作付面積3.5㌶)

 前山大輝さん(44)=前山農園園主、就農23年目、名瀬本茶地区でタンカン・津之輝を栽培(同3.3㌶)

 元井雄太郎さん(39)=元井農園後継者、就農15年目、住用地区・名瀬根山地区・小湊安脚場地区でタンカン・津之輝など栽培(同9㌶)

「苗木食害、生産失う深刻さ」「抑制できてこそ共生可能」
中核・若手果樹農家の意見 徳島 一蔵(奄美新聞記者)

 アマミノクロウサギによるタンカンを始めとしたかんきつ樹皮への食害。奄美市の果樹農業をリードし産地づくりを担っている中核・若手農家に、この問題の認識、共生のために求められる方策の在り方など意見を聞きました。

 ―元井さんは以前、JAが主催した会議の中で食害問題を取り上げました。改めて現状を聞かせてください。

 元井 大和村の福元地区が最も直面してますが、実は住用地区や小湊安脚場地区でも相当やられています。なかでも住用では山の上だけでなく下場(平場)でも。夜間、クロウサギが国道を渡って自分の畑の中に入る様子を確認しています。樹皮をかじるのはタンカン、ポンキツなどのほか、山手に近い所では津之輝も一部が食害に遭い、丸裸にされました。周辺に植樹している防風林は全くかじられないのに、かんきつの木だけやられてしまう。不思議です。

 ―本茶の方はどうですか。

 平井 今のところ食害はないが、クロウサギの姿を見る回数が多くなった気がします。

 ―この問題についてどのように認識していますか。かんきつ類に被害を与える鳥獣ではヒヨドリ、カラス、イノシシなどの存在があります。

 平井 作物の中で野菜なら植えて年内で収穫できるから、被害に遭っても次の年に植え替えできます。かんきつの場合、植えて3~5年ほどかけてようやく収穫です。苗木の植樹からスタートですが、これがかじられ枯れてしまうと生産を失うことになります。樹木が成長し収穫直前になっての食害だと、それまでの期間が無駄になってしまいます。カラス、ヒヨドリ、イノシシの被害は当年の被害がほとんど。ところがクロウサギはこれまでの育成期間と、これからの育成期間を消失させ再度資金が必要になります。農家にとってとても深刻で大打撃です。

 前山 奄美大島の中でも福元や小湊安脚場といったタンカンの味がいい所(標高が高い山地)で食害が出ています。新規農家はこうした場所を希望しますが、現状では薦めることができません。ヒヨドリやイノシシは果実への食害。クロウサギは樹皮への食害。樹皮に被害が及ぶと枯れてしまい果実は生産できない。打撃が一番大きいのはクロウサギであり、鳥獣被害の筆頭と捉えるべきです。

 元井 剪定バサミで樹木を一本ずつ切られてしまうようなもの。行政の皆さんが行うクロウサギの被害調査に違和感があります。食害は苗木ですが、果樹農家にとっての被害は苗木代ではありません。果実を失うことになるのです。イノシシは1㌧も食べない。クロウサギは1㌧生産できるものを食べてしまう。これが被害の実態です。ここに目を向けるべきではないでしょうか。

 ―クロウサギによる食害が果樹農業にとって大打撃になることが理解できました。このままでは「奄美たんかん」の産地づくり、ブランド確立にも影響を与えるでしょう。行政など関係機関に何を求めますか。

 平井 共生をどう捉えるかです。農家とクロウサギが共生していく。こういう受け止めでは改善できないのでは。国・県・市町村も共生に向けて動き出さない限り前進しません。範囲も広がるなど年々深刻となる食害に対し、すぐに対応できる体制を整えてこそ共生だと思います。

 本土の果樹農家などと情報交換しています。本土では野ウサギによるかんきつ被害が出ており、対策を講じているようです。こうした先進地に行政が出向き、「こういった対策方法がありますよ」という情報を提供してほしい。情報があれば農家は安心します。

 元井 イノシシ被害防止用の柵を導入した場合、この耐用年数の関係でクロウサギ用の侵入防止柵を導入できないと聞きます。農家にとっては一刻を争う問題。クロウサギの防止柵も導入できるよう、もっと柔軟に食害の実態を直視して対応できないでしょうか。また、なぜかんきつの樹木を好むのか、この点についても調査研究を引き続きお願いしたい。クロウサギの餌の研究が進めば、逆に好まない餌が明らかになり忌避剤の開発にたどり着くかもしれません。

 平井 食害を抑制する対応では短期と長期の視点が欠かせない。苗木を守る方法、餌の解明が短期、防止柵が長期です。しっかりと仕組み化して農家に情報提供してもらうことで産地は守れます。農家とクロウサギの二者だけでは共生できません。

 前山 行政や研究機関の中で、この部署が窓口となり専門的に取り組むといったプロジェクトチームのようなものを作り対応していただきたい。このままかんきつ食害が繰り返されたら、植樹して収穫までの5年間、さらに作業を繰り返すと10年分の損害になってしまう。新規農家に対しては植え替えなければならない苗木への補助にも目を向けてもらいたい。対策の財源(予算化)については高率補助の奄美群島振興開発事業を活用できないでしょうか。

 ―世界自然遺産に登録された島で、そのシンボルであるアマミノクロウサギの保護と同時に、産業も両立できなければ島民は生活できません。果樹農家の皆さんの意見が施策に反映されてほしいと思います。また餌については大和村にクロウサギ関連施設が誕生しましたので、飼育により解明が進むことを期待します。