鍼灸の研究で博士号を取得した米田哲哉さん。50年ぶりに古里に戻り開院、治療にあたっている
奄美市笠利町佐仁出身の米田哲哉さん(68)が高校卒業以来、50年ぶりに古里に移住し、鍼灸(しんきゅう)院を今年開業した。鍼灸の研究で博士号を取得、学会の最優秀論文賞を受賞した米田さん。東洋医学である鍼灸を西洋医学のように「科学的に証明するのが私の命題」として、治療と研究を並行しながら「奄美に貢献したいと帰郷した。島の人の笑顔が見られたら」と患者に向き合っている。
中国の企業をメインとした人材育成のコンサルタントと鍼灸院の代表だが、いずれも名称を「ミュー」(ミューコンサルタント、みゅう鍼灸院)としているのは、「フランス語の『よりいい』という意味。ベストまではいかなくても、更によりいいを目指したい」(米田さん)。
大島高校から鹿児島大学工学部応用化学科に進学。卒業後は三井工作所(現三井ハイテック)に入社し、シンガポールや中国と海外勤務を長く経験した。「小さい頃から奄美に貢献したいという気持ちがあった。一番いいのは医者ではないか」。2002年退職し、44歳の時に鹿大医学部の学士編入試験を受験。学科は合格したものの最終10人には残れず。化学系企業に転職し中国などで勤務したが、「鍼灸師のいとこがおり、たまたま脈診してもらった。脈診だけで身体に不調があればわかる。全てあてられ、驚いた」。これが転機になった。
「年齢的にも医者の再挑戦は無理。今度は東洋医学を頑張ろう」と決意した米田さんは16年に帰国し、会社勤務の傍ら北九州市にある鍼灸が学べる夜間学校に3年間通った。定年退職後は現在のコンサルタントを設立、鍼灸国家試験合格後に鍼灸院を開院した。人材育成と鍼灸に取り組むだけでなく、米田さんは研究も選択。19年4月に九州工業大学大学院生命体工学研究科博士後期課程に入学した。大学院で研究を重ね、25年6月に「鍼刺激による遠隔部末梢(まっしょう)血管拡張のモデリングとその検証」(論文名)で博士号を取得。投稿論文は、その年の12月にはバイオメディカル・ファジイ・システム学会の最優秀論文賞に輝いた。
鍼を打つと一酸化窒素が発生し血管を拡張させる。米田さんは「ヘモグロビンが一酸化窒素を末端まで運び、酸素の供給と同時に一酸化窒素も放出して血管を拡張する」という仮説を立て、世界中の論文を調べて体系づくりに取り組んだ。「研究論文は何度も返され、6回提出した。未熟な私を学会が育ててくれた」と振り返り、研究を治療に生かすことについて「鍼灸は2500年の歴史があるとされる。ところが経験に基づいての治療が行われており、『こうすれば治る』ということが西洋医学のように科学的に説明できない。これが悔しい。研究することで鍼灸の治療効果を科学的に説明したい」と語る。科学的な裏付けとも言える研究は現在も続けている。
昨年12月に福岡県から転居し、自宅を兼ねた鍼灸院を龍郷町浦の国道沿いに開院したのが今年1月6日。「中学まで笠利町で過ごし、高校は名瀬で。その間に鍼灸院を設けた。研究で大学に行くことがあり、空港に近いことも理由。また、自宅ですることで治療費用を抑えられる」
古里での開院から3か月。予約制をとっており、事前に症状を把握し治療方法を調べ組み立て、「これでいくぞ」と施術に臨む。「坐骨(ざこつ)神経痛など神経痛が多い傾向にある。また、膝の痛みを訴える高齢の女性も多い」と語り、「61歳で資格を取得した。本当はおやじ、おふくろに鍼灸を施し親孝行したかったが、資格を取る前に亡くなった。両親に接するような気持ちで島の高齢の皆さんの治療にあたっていきたい」と米田さん。医療機関での検査など西洋医学とも連携しながら、「未病を治す」という東洋医学の予防医療を実践している。
みゅう鍼灸院の電話は080・8880・6253。

