適した条件とは

移動に適した条件を見いだしながら秋の渡りで奄美に南下してきたアサギマダラ

アサギマダラにみる知恵
生産安定へ防災取組みを

 台風21号(近畿中心)5851億円、同19号(全国)5680億円、同18号(同)3874億円。これは今年、国内で保険金支払額の多かった風水害の上位(1位~3位)だ。日本損害保険協会がまとめた。支払額の合計は9381億円。2004年度の記録を超え、単年度として過去最多を更新した。

 高潮被害などで関西空港を機能不全に陥れたのが9月に上陸した台風21号。近畿地方を中心に家屋の倒壊や車両の損傷など甚大な被害が出、損保各社の支払額は今年最大だった。一つの風水害としても1991年に全国的な被害をもたらした台風19号の5680億円を超え、過去最大の支払額という。

 今年の気象災害は風水害だけではない。7月の猛暑、大阪府北部や北海道の地震もある。気候変動の影響がもたらす異常気象により年々大きくなっている災害。防災の在り方が問われているが、被害を抑える工夫を小さな生き物の行動からも学ぶことができる。

 日本列島を長距離移動(海を渡り約2千㌔も)するチョウとして知られる「アサギマダラ」。秋の渡りでは日本列島を南下(春は北上)するが、翅=はね=へのマーキングを通して生態観察を重ねている研究家がいる。『謎の蝶 アサギマダラはなぜ海を渡るのか?』の著書がある、群馬パース大学学長で医学博士でもある栗田昌裕さんだ。

 喜界島や奄美大島にも南下してくる秋の渡りの出発地となっている東北地方。栗田さんによると、8月の前半、たくさんのアサギマダラを見掛け、福島県のデコ平で3千匹にマーキングし、放蝶したという。ところがその後異変が起きる。8月は、統計開始以来初の5日連続で台風が発生するなど計9個に及んだが、台風が上陸した西日本などだけでなく、東北も雨の日が多く後半になるとアサギマダラの数は減少。「前半はにぎわったが、後半になると出会うチャンスが極端に減った」(栗田さん)。9月中・下旬になると群馬県や長野県で移動が確認されたものの「数匹程度パラパラと」、10月にはアサギマダラが南方に渡る重要な中継地点である愛知県の三ヶ根山で確認されたが、「通常は多いのに今年は数が少なかった」。

 栗田さんは指摘する。「今年の秋の渡りは、スタートは例年と一緒。しかし、各地で移動のピークの遅れがみられた」。奄美での例をみてみよう。栗田さんが毎年訪れている喜界島の場合、例年のピークは11月上旬だが、今年は11月2日に訪れても少なく、翌週から増えている。デコ平で栗田さんらがマーキングしたアサギマダラは同17日までに4匹が再捕獲されたという。喜界島では1週間遅れてピークを迎えた。沖縄県では長野県からの再捕獲例が八重岳(沖縄本島北部)で10月下旬、台湾でも最初の再捕獲例として10月26日に台北の北東でデコ平からの例が報告された。

 アサギマダラは生息に適した気温(22~26度)を求めて移動するとされている。今年は気温の上昇や台風による暴風(強風)など自然の猛威の中での移動となったが、「時期は遅れ、数的に分断(小隊列)されても的確・確実に移動して例年通り旅を全うしている」。栗田さんは再捕獲で具体的な例を挙げる。10月31日午前10時50分、和歌山県美浜町日ノ御埼でマーキングし放蝶したものが、11月3日午後2時30分、喜界島で再捕獲された。実質的にわずか2日間で、和歌山から喜界まで785㌔を移動したことになる。

 「時期を読み、空間を読み、植物を読み(ヤマヒヨドリバナなど吸蜜植物の状態)、気象条件を読み、移動に適した条件をつかんでいる。強風や雨など気象条件が悪い時は決して無理をしない」。台風接近時、栗田さんは森の中でじっと耐えているアサギマダラを実際に目撃したそうだ。

 自らの目的を達成するため、適した条件を見いだす。これは防災ではどのようなことを指すだろうか。今年、奄美を襲った台風でサトウキビなど農作物に甚大な被害を与えたのが24号だ。園地管理で対策として防風垣整備がある。関係機関が防風樹として推奨しているのが「アデク」と、固有種の「アマミヒイラギモチ」だ。

 こうした樹種を取り入れて防風垣の整備や作物の適期管理を徹底している農家は、台風など気象災害時にも減収量は少ない。「台風が来るのは当たり前の時代。被害を防ぐため、園地管理で防風垣を施し対策に取り組むのは農家の努め」。農業の場合、生産安定のための適した条件は、これに尽きる。認識しアサギマダラのように行動に移せるだろうか。(徳島一蔵)