52年、奉仕の散髪に幕

最後の奉仕で、子どもの髪を整える渡さん(提供写真)

理容師・渡さん 希望の星学園で毎月1回
「喜ぶ顔うれしかった」

 龍郷町の福祉型障がい児入所施設「希望の星学園」(田下哲郎施設長)の子どもたちに散髪のボランティアを続けてきた理容師・渡勝美さん(85)が15日、同施設で最後の奉仕活動をした。毎月1回のペースで52年に渡って奉仕を続けて来た渡さんは、年齢を鑑みて年内を区切りに幕を下ろすことを決意。最後の調髪を終えた渡さんは「一日楽しんだ。それ以上のことはない」と晴れやかな表情で語った。

 渡さんは、両親が理容店を営んでいたことも手伝ってか、20歳の頃から大阪で修業を始め、奄美に帰郷後は理髪店を開業。数度場所を変えながら、現在も奄美市笠利町万屋で「渡理容所」を営んでいる。

 きっかけは、当時所属していた北大島理髪組合。仲間も各施設で活動する中、1967年に同園が開設。「行ってみてはどうか」と勧められたのが縁の始まりだった。

 通い始めた当初は、3人で40~50人の髪をカット。よく動く子どもたちを叱りながらも優しく散髪した。「けがをさせては親に申し訳が立たない」と、常に注意を心掛けたという渡さん。現在は10年ほど前から活動する龍郷町赤尾木で理髪店を営む渡美範さんと2人で、毎回5~6人の髪をカットしてきた。

 この日、最後の散髪を終えると、子どもたちや施設職員からお礼の花束や記念品が贈呈。田下施設長は「一人一人丁寧に声を掛け、髪型を聞いていた姿が印象的。感謝しかない」と謝意を述べた。

 「寂しいといえば寂しいが、みんなの喜ぶ顔がうれしかった」と振り返る渡さんだが、唯一の気がかりは後任がいないこと。「無理して取り返しがつかなくなる前にやはりどこかで踏ん切りをつけなければならない」と後ろ髪引かれる思いだ。

 今後も、常連客は迎えて店は継続するという渡さん。「みんなを送り出すまで、頑張りたい」と生涯現役を誓った。