解除の先に(中) ミカンコミバエと奄美大島

緊急防除により島外出荷できずタンカンは廃棄処分がとられたが、解除により来年は出荷できる。収穫に向けて現在は摘果の時期だ

初動対応、十分な検証を

 国、県、地元町に他市町村の果樹担当職員らも加わって進められた瀬戸内町での防除活動。自治体の垣根を越えて展開されたが、行政だけでなく防除が地域一体となったのは、生産農家を含む住民が協力するようになってからだ。

 瀬戸内町では12月9、10日の節子集落が最初。集落の区長の呼びかけのもと住民が協力、寄主植物の一斉除去などが行われた。町職員だけでなく県職員も加わった住民説明会(寄主植物の存在が把握できるマップ作成の場にも)をまず開き、住民の理解のもと各集落で実施。町内に離島を抱えるなど広範囲に及ぶ同町の説明会は今年3月まで続いた。ミカンコミバエの侵入・発生で、生産熱が高まっているタンカンなどの特産果樹を島外に出荷できないという「非常事態」に住民の関心はとても高かったという。

 「防除で取り組んだ果実の摘果や除去ではグアバが予想以上に多く、冬場も着果しているものもあり、4月上旬くらいまでかかった。また野生化しているイヌビワ、オオイタビ、オキナワスズメウリも確認され、ミカンコミバエが寄生しやすい果実のため摘果するとともに、定期的な果実調査を実施している」(町農林課)。

 地域住民の協力のもと、こうした防除活動は進められた。だが、当初の調査はミカンコミバエの誘殺に関する情報が地域に公表されないまま行政のみで行われた。町農林課の担当職員は語る。「ミカンコミバエが侵入し、誘殺状況から警戒が必要という情報を地域住民にも早めに公表すべきだったのではないか。誘殺数の増加を受けて果実調査を行った際、所有者などから『何事なの』などと問われても調査の目的を説明できなかった。情報公開の在り方を再検討する必要がある」。

 ▽検証必要

 ミカンコミバエの誘殺数の増加(大量飛来)が公になったのは11月に入って。同月4日には農林水産省が防除対策検討会議を開き、誘殺数増を受けて奄美大島全域で植物防疫法に基づく移動規制の実施を決定、地元での説明会が行われたのは9日だった。

 この地元説明会では出席した生産者から「誘殺数について農家には何も知らされず、11月2日の報告会で初めて知った。6月時点で飛来(飛び込み)が確認されていたのに、長い間、農家には何も知らされていない。6月の段階では数は少なくても、国は『危ない』という認識はなかったのか」「農家への報告から規制決定まで期間がわずかであり、報告は遅きに失した。飛来が確認された時点ですぐに農家に情報提供すべきだった」。移動規制によって最も影響を受けるのは生産農家だけに、説明会では情報公開に対する不満が相次いだ。

 奄美市住用町の果樹農家、元井孝信さんは「ミカンコミバエの発生を一年もかからずに抑え込むことができ、ほっとしている。しかし、やはり初動対応のまずさが今回の事態を招いた。誘殺に関する情報を7~8月で速やかに公表すべきだった。情報公開の在り方を含めて初動対応を十分に検証し、散発的な『飛び込み』が誘殺数の増加や発生につながらないよう、初動対応のマニュアルに今回の検証内容を盛り込むべき」と指摘する。

 ▽沖縄並み

 緊急防除期間中、奄美大島(加計呂麻・請・与路島を含む)での防除は、▽トラップ調査=週2回の頻度で▽地上防除=誘殺用のテックス板(植物由来の物質を抽出した誘引剤と殺虫剤を混ぜたもの)を、集落等を中心に1㌶当たり3~6枚設置▽航空防除=山間部等を中心に1㌶当たり3~6枚の散布密度で計5回▽寄主果実調査=誘殺が確認された場合、誘殺の有無に関わらず月1回程度▽寄主植物除去=誘殺が確認された場合、地元住民などが自主的に―の方法で実施された。

 解除後の対応について元井さんは「台湾など周辺の発生国からの『飛び込み』など、常にミカンコミバエの侵入リスクがあるだけに誘殺に備えて沖縄並みの対応をとってほしい。沖縄では石垣島などの南部が年4回、北部同2回テックス板を散布・設置していると聞いている。二度と再発生を繰り返すことのないよう、誘殺効果が非常にあるテックス板での防除を今後の平時でも行ってほしい」と訴える。

 このテックス板の予算化に当たり沖縄では沖振法の交付金を活用している。テックス板の価格は1枚265円もする。奄美大島の緊急防除では5回実施された航空防除で費用を考えてみよう。散布されたテックス板の枚数は約82万枚であり、2億円以上の予算が投入されたことになる。枚数にもよるが、今後もテックス板による防除を継続するとなると予算の財源をどうするか検討しなければならない。

 元井さんは語った。「沖縄の取り組みを参考に奄美では奄振法で予算化できないか。侵入により移動規制(島外出荷禁止)のおそれがあるとなると、農家は安心して生産できないし、産地間競争に打ち勝つため高品質の果実をつくるという意欲も減退してしまう。入っても瞬時に抑え込む体制を確立してもらいたい」。