島の自然とネコ問題についてパネルディスカッション
シンポジウムのパネリストが声明文を表明
国立研究開発法人森林総合研究所と外来ネコ問題研究会は5日、奄美市名瀬のAiAiひろばで公開シンポジウム「島の自然と未来をみんなで考えよう!」の第1回「奄美大島と御蔵島の最新のネコ問題研究から」を開いた。講師陣から奄美大島、徳之島と海鳥の繁殖地である東京都御蔵島のネコ問題の研究成果などが紹介され、参加者に飼い猫の適正飼養とノネコ管理計画に対する理解を訴えた。また講演者とパネリストが、関係者や住民に対してネコ問題解決を呼び掛ける声明文も披露された。
シンポは、環境省環境総合推進費や公益財団自然保護助成基金、住友財団環境研究助成を受けて行われた。シンポの司会進行を、同研究会の山田文雄会長が担当した。
奄美野生動物研究所の塩野﨑和美さんは、「ネコ問題と対策、日本と世界の事例」の題で講演。「ネコはIUCN(国際自然保護連合)の侵略的外来種ワースト100に入っている。世界ではネコにより430種が絶滅の脅威にさらされ、うち63種(26%)が絶滅した」と話した。
海外の事例では希少種保全のため、ウイルスや毒エサ、ワナ、銃を用いて根絶に成功したことを紹介。「ノネコ管理計画でネコを捕獲し、譲渡先が見つからない場合は殺処分するとしたのは、国内と国外の対策方法の合わせ技。殺処分をしたことで世界自然遺産に認められないことはあり得ない」と語った。
徳之島のネコの安定同位体分析を行った森林総合研究所の中野留美子さんの研究を、同研究所の亘悠哉さんが代理報告。「従来のフンを調べるなどの方法は、時間と労力がかかり短期的な情報しか得られないなどの理由で新しく安定同位体による食性解析を行った」と説明した。
亘さんは「結果は山のネコ、里のネコ、飼い猫に、食べ物による明確な違いは見つからなかった」とした。「徳之島では、山のネコも人からの食べ物に依存している可能性がある。山と里を行き来して、本能を満たすためおやつ的に山の動物を食べている」とし、ネコの捕獲と適正飼育の徹底を呼び掛けた。
山階鳥類研究所の岡奈理子さんは、「緊急!オオミズナギドリ世界最大繁殖地の東京都御蔵島のネコ問題」を発表。「本州から約200㌔離れた御蔵島は、東アジアの固有種オオミズナギドリの世界最大の繁殖地。9カ月を島で過ごし、その時にネコと出会い襲われてしまう」と現状を説明した。
繁殖集団は40年で94~97%減少して、危機的状況にあると指摘。オオミズナギドリの減少要因は、海洋環境の変化(島外要因)や捕食者(ネコ)の出現と増加など(島内要因)を挙げている。2014年時点の推定で、ノネコにより1年間で約2万羽が捕食されるというデータも提示した。
亘さんは、「奄美大島・徳之島・御蔵島のネコ問題:背景から対策を考える」を発表。「3島ともネコが野生動物を襲い、影響を与えている。奄美大島ではマングース防除事業で在来種の回復が見られるが、山でノネコが増えて事業の効果を阻害している」「ノネコ対策は長期的プロジェクトになる。強力なモチベーションが必要で、行政・島民の主体的・永続的な取り組みが鍵になる」などと話した。
休憩をはさみ講演者3人と、奄美猫部の久野優子部長、ゆいの島動物病院の伊藤圭子院長、NPO法人どうぶつたちの病院沖縄の長嶺隆理事長、神奈川大学法学部の諸坂左利准教授が登壇してパネルディスカッション。会場からの質問に答え、「捕獲して譲渡先が見つからなかったネコの殺処分に対してやむを得ずの措置で、早期の問題解決を望む」とした意見などが出された。
最後に会場の賛同を得て、シンポジウム・パネリストの声明を伊藤院長が読み上げ。声明文の要点は、▽奄美大島ノネコ管理計画を理解・支援するとともに、飼い猫の管理やノラネコの対策をしっかりと行う▽飼い猫が島の自然を壊さないよう飼育登録をし、マイクロチップを装着して室内のみで飼育する▽動物を愛護する気持ちは大切だが、不幸なネコを増やさない対策も考える▽ネコ問題は、人間が起こした問題で人間の責任で解決する―で、外来ネコ問題研究会のホームページ上でも公開するという。
8日は徳之島伊仙町で、第2回のシンポジウムが開催される。