国内外の学会で四冠達成

四冠の受賞トロフィーや賞状と、シラスで作られた筒状のコンクリートのサンプル(右側)と普通のコンクリート(左)

 

 「建築はみんなでつくるもの。クライアント含めみんなに感謝」と話す山下さん

 
 クライアントの片山さん夫妻(中央)と山下さんたち関係者

 

 都内に建つシラスコンクリート住宅R・トルソ・C

 

 

シラス原料のコンクリート住宅
奄美出身の建築家、山下保博さん

 

 【東京】鹿児島の火砕流堆積物であるシラスをコンクリートにして建てられた都内の住宅「R・トルソ・C」が、国内外のコンクリート建造物学会で四冠に輝いた。奄美出身で大島高校卒の建築家、山下保博さん(アトリエ・天工人代表)がプロジェクトリーダーを務めて手がけたコンクリートの住宅で、4年に一度、世界的に優れたコンクリートの建造物に授与される2018年fib(国際コンクリート工学連盟)の建築部門における最優秀作品を受賞。

 これまでに同住宅は、16年に日本コンクリート工学会の日本一となる作品賞、17年に米国コンクリート工学協会の総合部門最優秀賞、低層部門第1位のダブル受賞の栄誉に輝いていた。18年の受賞も合わせコンクリートの重要な賞の四冠を達成したことからこのほど、原宿駅に近い南国酒家迎賓館で「R・トルソ・C」の四冠感謝とお祝いの会が、多くの関係者と身内縁者を集めて開かれた。

 この席で全容が明らかになった山下さんたちプロジェクトチームのプロセスを紹介する。

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 同住宅の依頼者であるクライアントの片山さん夫妻が山下さんに求めたのは、「コンクリートで内外部を包み込んでほしい。そして、そのコンクリートが挑戦的であり、環境的であって欲しい」。

 山下さんの挑戦はそこから始まったという。コンセプトは▽内外打ち放しで、挑戦的で環境型のコンクリートを使用した建築▽プロの設備設計者の協力の元、熱環境をコントロールするためのシステム導入▽都市においての自然との関わりのため大きな開口部を配置―などが特長になっている。

 これまでにない挑戦的なものをと、鹿児島の厄介もののシラスをコンクリートにすることを考えた。片山さん夫妻も同意の下、環境型シラスコンクリートの開発が始まったが、建築利用へのハードルが表れる。

 シラスの建築利用に①建築への応用が可能か②製造するプラントはあるか③建築基準法に適応するか④シラスの品質管理―などの課題点が表面化。そこでコンクリート研究者や構造設計者、施工者、シラス生産者、シラスコンクリート製造業者らが集められ、13年4月から試験練りや実機練りを経て環境型シラスコンクリート技術を確立。14年3月「R・トルソ・C」が意匠登録された。

 その環境型シラスコンクリートは①資源の保護に優れている(砂の6割以上をシラスに変更可能・産業廃棄物を使用したセメントの使用)②環境にやさしい(長期強度、耐硫酸性、塩害に優れている・解体時にセメント原料として完全にリサイクルできる・高炉セメントを使用しているため、二酸化炭素が4割削減できる)③人間にやさしい(キメ細かい仕上がり・多孔質のため、調湿・消臭効果も)―などの特長がある。業界でも画期的なコンクリートが誕生し、それにより3階建ての住宅が完成した。

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 同会場には環境型シラスコンクリートのサンプルも置かれ、きめ細かな触り心地に訪れた人たちも驚きの声をあげていた。

 山下さんは「地域に眠っている素材を生かしたいとの思いでやった。『いい加減にしろよ』と言われながら、挑戦してこられたのはクライアントの片山さん夫婦のおかげ。そして建築はみんなで作るもの。いいメンツに囲まれた。感謝している」と涙ながらに謝辞を述べた。

 また、同会に参加し、会を締めた金子万寿夫衆院議員は「受賞は聞いていたが、こんなにすごいものを作ったとは驚いた。鹿児島の宝だ。奄美と鹿児島と一緒に挑戦していきたい。これは県庁のメンバーにも勉強してほしい」と興奮気味に話した。

 ※「R・トルソ・C」のトルソはイタリア語で人間の胴体だけの彫像で、デザイン業界ではボディの意