新時代あまみ・住民自治(上)

新時代あまみ・住民自治(上)

集落で唯一の未舗装だった道路。集落の声が行政に受け入れられ事業化し、舗装されるまで8年の年月を費やした

地域の問題行政は「まず向き合うべき」

 「豪雨時は膝上まで水に浸かり、こわくて道路を通行することができなかった。今はきれいに舗装され、雨水が道路にたまることがなくなり、降雨時も安心して暮らせる」。道路沿いに自宅があり、庭内で清掃作業中だった女性が当時を振り返りながら、弾むように語った。道路中央には排水路が整備され、アスファルトの色の濃さが舗装時期の新しさを物語っていた。

 龍郷町の赤尾木集落(約280世帯)。その道路は国道58号に面している。車両の利用の多い空港線(県道)とは反対だが、集落の公民館とも近く住宅に面した道路だ。延長は約100㍍。奥にはサトウキビ畑が広がり、まっすぐ進むと農道にたどり着く。この農道を通らなければ、津波発生時などの避難場所に指定している高台には行けない。

 「前区長時代からの懸案事項だった集落で唯一、舗装されていない場所。行政に何度も舗装をお願いし、実現するまで8年もかかった」。集落区長の渡美範さん(64)は説明する。町役場の担当課に道路舗装を要望したところ、返された言葉はこの二つだった。「すぐにはできない」「地権者の同意がそろっていない」。区長として渡さんは間に立ちながら地権者同士の話し合いの場を持ち、全員の同意は難航することがあったものの、総意として形になった。

 ところが再び行政が壁をつくった。「補助事業の規格から外れている。予算がつかない」。結局、町単独事業での予算化が選択され、唯一の未舗装は解消された。だが、100㍍の道路が舗装されるまで10年近い年月が費やされた。集落内には、今なおわだかまりが横たわる。「最初から役場側が住民の要望に対し、真摯に積極的に耳を傾け、関心を示していたら、もっと早く解決していたのではないか。役場側、担当課、担当者の姿勢一つで事態が大きく変わった」。

 事業の専門機関は行政だ。手法や予算・制度の裏付け、執行は行政が握る。一方で、その事業の必要性を適切に判断できるのは行政だろうか。暮らす住民であり、関わる団体だろう。

 ▽「何のため」「誰のため」

 2008年に集落区長となった渡さん。現在5期目(1期2年)で、10年間務めていることになる。奄美市笠利町との境界に立地し世帯数からみて町内でも規模の大きい集落になり、最近では本土から移住してきたIターン者も増えている。複数の福祉施設のほか、県立の養護学校もある。

 区長の心構えについて渡さんは「集落のみなさんから寄せられる話を、しっかりと聞くこと」と語る。相談事も多く、土地問題や家庭問題のほか、「ネコが死んでいる。処理してほしい」という細かな要望やさまざまな苦情も。「拒否してはだめ。どんな相談や要望・苦情も必ず耳を傾けて聞き、解決に向けて行動するのが区長の役割。『できません』『聞けません』という姿勢を示したり、感じさせたりしてしまうと、集落住民の声の行き場がなくなってしまう」。

 解決に向けての行動では、道路問題のように行政(町役場)が交渉先となる場合が多々ある。「行政は地域の問題に対し、改善や解決に向けて、まず向き合うべきではないか。進める施策で『何のため』『誰のため』という視点が欠けては、交渉は成り立たない」と渡さんは指摘する。地方自治では、自治体が進める団体自治と同時に、住民が主体となる住民自治にも比重が置かれなければならない。

 ▽一方通行

 龍郷町には集落が20あり、それぞれに区長がいる。各区長で構成する区長会の会長に渡さんは就いている。この区長会のメンバーが月一回役場で集う場がある。毎月27日の午前中開かれている「駐在員会」だ。なぜ、区長会とせず駐在員会なのだろう。それは行政側からの見方の反映ではないだろうか。

 住民税や国保税などの徴収や町の行事などの伝達、つまり役場の事務連絡を集落の住民に伝える役割を第一に区長は担ってほしい――。それが区長会ではなく駐在員会という名称に位置付けられていないか。事務連絡の伝達だけを区長に求めるのなら、まるで上意下達のような一方通行でしかない。「お上(役場)の意向を下々に伝えればいい。下から上への意見は認められない」。そんな姿勢がにじむ。

 「現在の町長になり変わった。新町政になり一年余りが経過したが、毎月の駐在員会に必ず町長や副町長も出席するようになった。以前は担当の課長、あるいは課長さえも出席せず、担当者任せだった。しかも区長側が役場に対し集落の要望や意見を口にすると、煙たがるような雰囲気だった。今は違う。各課長もそろい、区長の要望・意見、つまり集落の住民の声を聞こうという姿勢がこちらに伝わる」。渡さんはこれまでの一方通行の変化を語る。

 一方通行から双方向へ。渡さんは歓迎だけでなく、区長としての責任の重さも言及する。「(集落の声が)行政の施策として反映される可能性があるだけに、集落にとって本当に必要な施策となるよう、これまで以上に集落の状況の把握に努めていきたい」。

 駐在員会で役場側への要望・意見を求められる機会が増えたという。「行政が進める地域づくりの施策において、集落の特性を伝えることができる区長でありたい。行政に提案できるようになるためにも日頃の集落内での活動が大事。集落民の声を常に聞くことに尽きるのではないか」。渡さんは語った。