新時代あまみ・住民自治(中)

新時代あまみ・住民自治(中)

「公民連携による町の活性化」を提言し、実際に町との包括協定を実現した町田酒造㈱代表取締役社長の中村安久さん

尊重、推進へ たつごうみらい会議設置
「団体自治に生かす」発想を

 昨年6月、龍郷町で町と企業2社による連携・協力に関する包括協定が結ばれた。企業2社は町田酒造㈱(中村安久代表取締役社長)、㈱ビッグツー(藤喜一代表取締役社長)。竹田泰典町長、両社長が出席し、役場町長室で行われた締結式では、町側からこんな言葉が飛び出した。「公民連携で町活性化につなげたい」。

 公民連携(官民パートナーシップ)、公的機関と民間事業者が協力して公共サービスを提供することだ。この公民連携の実現へ包括協定を積極的に働きかけたのが、町田酒造社長の中村さん。当初は個々の企業ではなく、関係する団体を通しての町行政との連携を目指したものの具体化せず。「まずは数社で取り組み、その後連携を町内他社にも広げる」方向へ舵を切った。

 「町民サービス向上・地域の活性化」を目的とした包括協定で打ち出している連携事項は、▽地方創生▽町民の暮らしの安心・安全▽環境保全▽町民の健康増進▽子育て支援▽産業・観光振興―などに関すること。町の主要施策の推進で、「町と民間が連携・協力して取り組む」ことを宣言している。

 ▽提言

 中村さんは役場内に、「龍郷町シンクタンク」の設置も提言している。企画立案能力の高い職員を横断的に集め、さらに公募などにより幅広く町内外から人材を集めての設置だ。「全国的には事例が多数あるが、奄美群島内では事例がなく、関心が高まる。一方、『そんなもので町が変わるのか?』との反応も出てくるので、しっかりスケジュールを立てて結果を出す(政策立案)ことにこだわる必要ある」。

 中村さんの町への提言は、「たつごうみらい会議」という形で受け入れられた。則敏光副町長は「人口減少と地域経済の縮小という課題に対して、地域で暮らす人々や事業活動に取り組む事業者の視点を生かし、共に考え、解決策の実行を促す(実行に移す)組織として、たつごうみらい会議を設置した」と説明する。住民自治の尊重、公民連携の推進がみらい会議の根幹だ。

 「憲法92条に規定する『地方自治の本旨』により、地方自治の本来の在り方については、『団体自治』と『住民自治』の二つの要素から構成されると解されており、二つが融合してこそ地方自治ではないか」。行政である自治体主導の団体自治だけでなく、並行して住民の意見・提言も取り入れる住民自治の必要性を中村さんは強調する。

 自身もみらい会議委員の一人である中村さん。4回にわたる会議を経て昨年12月、みらい会議は町長に提言書を提出したが、「補助事業や制度などに精通し、公共の政策のプロである役場職員のみなさんから見ると、(みらい会議での議論は)『素人である民間が好き勝手にいろんなことを言うだけ』と映ったかもしれない。だが、本来、住民自治とは、そういうもの」「手間暇がかかり、時間がかかる。住民との意見交換で、行政への『要望大会』となったとしてもきちんと耳を傾け、必ず優先順位をつけた上での回答を。行政では気付かない地域の声がある。地域の声を引き出す姿勢のもと住民や民間団体に接し、ばらばらの意見や提言をまとめ集約し、分析した上で団体自治に生かすという発想が欠かせないのではないか」。

 「公共政策がわかっていない民間が、予算や制度の裏付けがないのに理想論を言うだけ。面倒だ。住民や民間団体はわれわれ(行政側)に任せたらいい」という姿勢では、独りよがりの地方自治に陥ってしまうだろう。

 ▽民間活用

 中村さんは各自治体が競うように進めている定住促進策で具体例を挙げた。島外からの移住者を受け入れるにあたり避けて通れないのが住宅の確保。公営住宅建設が手っ取り早いが、アパートやマンションといった民間住宅があると、行政としては民業圧迫を避けたい。「民間事業者の資金の活用に目を向けるべき。行政は公有地などの土地を貸し、住宅の建設は民間に任せたらいい。建設後の管理運営やサービスの方は民間の方が勝る。『半官半民』での住宅建設と運営。これこそ公民連携ではないか。資金だけでなく、サービス面の向上では民間にこそ優れた人材がいる」。

 企業経営者である中村さんが、行政との包括協定のもと公民連携に力点を置くのは「CSR」の考えから。企業が利益を追求するだけでなく、企業の組織活動が社会に与える影響に責任をもち、社会全体からの要求に対して適切な意思決定をする責任を指す。「CSRは企業経営の根幹において企業の自発的活動として、企業自らの永続性を実現し、また、持続可能な未来を社会とともに築いていく活動」と中村さん。

 黒糖焼酎製造業者として大手である町田酒造は、販売網を全国に構築するにあたって東京や大阪といった大都市に出先機関を設けている。こうした出先を町のアンテナショップ(地元の特産品などの紹介・販売)として活用する方法もある。既にある器を活用した方が、行政の負担は少なく人材の配置も不要だ。

 龍郷町には、町と包括協定を結んだ2社だけでなく他にも資金力のある企業が存在する。こうした民間の活用は、住民自治とも連動する公民連携に関心を示し、積極的に乗り出す役場職員の姿勢にかかる。「若手の職員は発想が柔軟で民間に近いアイデアを持ち合わせている。住民や民間団体との連携にも理解がある。だが、硬直した幹部職員がブレーキを掛けている」。これが龍郷町にも存在するとなると、住民自治も公民連携も前進しない。