産業振興の展望④ 鹿大島嶼シンポジウム

産業振興の展望④ 鹿大島嶼シンポジウム

「奄美群島における情報通信基盤整備とその利活用」を講演した升屋正人教授

情報通信基盤を利活用する奄美市ICTプラザかさり

情報通信産業
ICTで生産性向上を

 学術情報基盤センターの升屋正人教授は、「奄美群島における情報通信基盤整備とその利活用」を講演。学内では国際島嶼教育研究センターや総合研究博物館などを兼務していて、地域には総務省委嘱の地域情報化アドバイザーとして関わっている。奄美群島では、奄美群島広域事務組合の「奄美群島における情報通信産業の振興に関する検討会」の座長を務める。

 ブロードバンド(高速なインターネット回線)情報通信基盤が必要な理由として、▽地域生活水準の向上▽地域経済発展基盤▽子どもたちには不可欠▽高齢者にも必要―と位置付け。「小・中・高・大学のそれぞれの教育で活用が始まっており、デイサービスセンターなどはネットがないと保険請求できない」と話した。

 3月末で期限を迎える特別措置法に伴う現在の「奄美群島振興開発計画」の中では、情報通信基盤の整備促進だけでなくICT(情報通信技術)の利活用と、それを活用する産業の定着が求められているという。

  ◇   ◇  

 また、奄美群島のブロードバンド整備状況を説明。「ほとんどの地域で光ファイバの整備が完了。超高速ブロードバンドが未対応なのは、瀬戸内町の離島や徳之島北部の一部となっている」。

 奄美群島を結ぶ海底ケーブルを示し、「離島なので光ファイバの海底ケーブルがないと、インターネットにつながらない」と指摘。「ブロードバンド整備には官民一体となった取り組みがあり、与論町ではまちづくりグループが全世帯にアンケートを実施。400世帯以上が希望して、ブロードバンドが整備された。住民の働きかけで通信業者が整備した離島での初の事例」と話した。

 与論町は2003年にADSL回線、09年に公設民営方式で光ファイバが整備されたが、通信速度が遅いという問題が発生。升屋教授が関わり、課題解決の研究を開始。解決策を見い出したが、「その後の機器の更新やソフトウェア技術の進歩により、一度に大量のデータを送ることが可能になり遅いと言う人はいなくなった」と振り返った。

 情報通信基盤の課題は、▽光ファイバ未整備地域の整備促進▽海底ケーブルルート増設が必要▽公衆無線LANの整備促進―を列挙。「公衆無線LANはまず防災拠点に整備する必要がある。また観光客の利便性向上につながるので、観光についての観点が必要だろう」。

  ◇   ◇  

 18年3月に出た『奄美群島振興開発総合調査報告書』には、ICTに関して、▽情報通信基盤の整備促進▽ICT利活用の推進▽ICTを利用した地域づくり▽情報活用能力の向上▽ラジオの難聴取対策―の5項目を設定。「従来の基盤整備に加え、新たな切り口でICT人材の育成が盛り込まれた」と話した。

 奄美群島の利活用として、しーまブログ(奄美市)、ICTプラザかさり(同)、奄美情報通信協同組合(同)、みらい創りラボ・いのかわ(徳之島町)、ヨロンマラソンインターネットライブ中継(与論町)などの事例を紹介。「ICTプラザかさりは、奄美空港の近くに建てられ八つ程の企業が入居できる施設。新しく起業して軌道に乗ったら、施設を出て別の場所に事務所を構えるという一連の流れができるだろう」。

 情報通信基盤の利活用の課題として、仕事を持ってきても人(働き手)がいない点や、若者は仕事が無いと思っているかもしれない点などを挙げる。「情報通信産業はどこでも仕事は可能。奄美群島でも仕事はあることを分かってもらう。ICTで生産性向上を図る必要がある。情報通信産業でみんながプログラマーである必要はない。いろんな職種、業種があることをアピールして、若者を定着させることが必要でないか」とまとめた。

 =おわり=