「徳之島の森林」は誰のもの?

「徳之島の森林」は誰のもの?

「徳之島の森林は誰のもの?」―徳之島町手々集落方向からの島影(6月上旬)

 

「盗掘・盗採防止」大義に林道ゲート施錠約17㌔
一般島民もシャットアウト再考を

 

 徳之島北部の「天城岳」(533㍍)連山の中腹の森林域をぬって走る徳之島町林道「山クビリ線」にも今月1日、出入り口の鉄製ゲートに南京錠が掛かった。世界自然遺産登録と観光客増を見据えて「自然環境の保全を図り、観光客等が質の高い自然体験ができるように」(県)。国や地元自治体、関係団体との利用適正化連絡会議の検討結果ではある。認定エコツアーガイド同行(有料)のない一般島民もシャットアウトされてしまう施錠区間は、同林道だけで約12㌔にも及んだ。

 「希少野生動植物の盗掘・盗採防止」を大義名分に、同島では▽2016年12月から天城町「剥岳(はげだけ)林道」の約2・3㌔▽今年6月からは同町「三京林道」の約3・1㌔=いずれも国有林・管理道路=のゲートが施錠済みだ。今回の山クビリ線を含め、いずれも奄美群島国立公園・特別保護地区~第2種特別地域、世界自然遺産推薦域が含まれる。だが、エコツアーガイドなしに一般島民らの徒歩立ち入りでさえも〝物理的〟に禁止された林道3ルートの総延長は約17・4㌔にも及んだ。

 ■「国民の森林」は誰のもの?

 林野庁は「国有林」について、従来の国土の保全・水源かん養・自然環境の保全・保健休養の場の提供など取り組みに加え、「開かれた『国民の森林(もり)』」と位置付けている。地球温暖化の防止、生物多様性の保全、森林とのふれあいや森林環境教育への寄与、レクリエーション・ふれあいの森づくりなどがある。

 世界自然遺産登録地(白神山地・屋久島・知床・小笠原)の陸域の95%を国有林野が占めているが、ゲート施錠立ち入り禁止措置例は聞いたことがない。国立公園・特別保護地区でもしかり。個人的な訪問機会の範囲では、尾瀬ヶ原国立公園(2回)、中部山岳同の立山黒部アルペン(室堂)と上高地もしかり。室堂の歩道の規制ロープ沿いのハイマツ帯の木陰では、国特別天然記念物のライチョウの姿に驚嘆。関係機関・団体の連携で保護・監視パトロールも徹底され、過度な警戒心も抱かず冬に備えていたのだろう。

 ゲート施錠に関しては「例えば、海の資源を密猟する不心得者がいるからと、その海岸を立ち入り禁止にするようなもの。漁業者らのように自主的な巡視活動など自助努力こそ求められる」。「山に遊びに行く人たちすべてが(盗掘・盗採など)悪いことをするわけではない」。「集落民にとっては生活に密着した林道。(共有林組合員として)いちいち鍵を借りに行くのも不自由この上ない」。指摘に共感を覚えた。

 ■保護巡視に「コスト」を

 「山クビリ線」は同町山(さん)~花徳~轟木にかけた国有林と山集落共有林をぬって走る。奄美群島国立公園・特別保護地区も一部含む重要な森林生態系に加えて、トンバラ岩や与路島・請島などの遠望、直下の山湾岸など眺望も格別だ。好天時は家族連れの姿も見られた。途中には、急患搬送の任務途上の2007年3月30日、天城岳連山の山頂に墜落した陸上自衛隊第1混成団第101飛行隊(当時)のヘリコプター殉職隊員5人の慰霊碑も鎮座。慰霊登山・参拝は続いているという。

 ■意見公募で柔軟に

 山クビリ線の施錠開始の1日午前。鍵を管理する山集落区長(3人)や共有林組合長ら地元代表は、住民や組合員たちの不満のジレンマに窮した実情も露呈。利用適正化連絡会事務局(県)側は、同代表らの〝説明努力〟暗に示唆するなど一時こう着化した。地域住民のコンセンサスを得る町当局側の努力、住民説明会は必要と感じた。

 「盗掘・盗採対策」は至極当然なキーワードだ。だが、労せずしての安易な施錠。一般島民のロックアウト(締め出し)=有料化は再考すべきではないか。「国民(島民)の森林」の恩恵に浴する権利。その権利と希少動植物をも両輪で守る巡視活動にこそ、「コスト」を惜しむべきではない。

 徳之島町林道管理条例第5条(林道利用の町長許可)の3号「登山、ハイキング、散策等レクリエーションの用に供するとき」は「この限りではない」とある。世界自然遺産登録へのイメージ戦略も必要だが、広くパブリックコメント(意見公募)も求め、柔軟に軌道修正しつつ走って欲しいと願う。
                         (米良重則)