パネルディスカッションで意見を交わしたシンポジウム=和泊町=
墓正月を体験する中学生ら=和泊町=
【沖永良部】2019年度埋蔵文化財公開活用事業シンポジウム「沖永良部島のトゥール~古の想い・技術を伝える墓~」が1日、和泊町あかね文化ホールであった。集まった地域住民らは、基調講演やパネルディスカッションを通して島の古墓について理解を深めた。
シンポジウムは、和泊、知名両町の教育委員会が主催。知名町では12年から屋者琉球式墳墓、アーニマガヤトゥール墓、新城花窪ニャート墓、屋子母セージマ古墳跡の4カ所を調査。和泊町も13年から世之主の墓、チュラドゥール、3号墓の3カ所を調査してきた。昨年、調査結果をまとめた報告書が刊行された。
また、トゥール墓の調査に合わせて島内の古墓分布調査を実施。その結果、和泊町で73地点、知名町で104地点の古墓が見つかっている。
最初に、沖縄国際大学の上原靜教授が「琉球弧の古墓」と題して基調講演。奄美大島や徳之島、沖縄諸島の古墓を紹介した上原教授は、沖永良部の古墓の特徴について「地形が平坦で琉球石灰岩が基盤となるため、横穴を掘るには不適な場所。地下を掘削して石壁を成型した後に横穴を作る造成技術が必要とされる」などと述べた。
両町文化財担当者による調査報告では、「町内の古墓の中でも、調査した三つの墓は規模が大きく外観にも特徴がある。特に世之主の墓は群島内で随一の大きさ」(和泊町担当者)。「遺物の特徴から各墓が使用されていた時期は17世紀後半から19世紀と推定できた」(知名町担当者)と説明。それぞれの墓が造られた年代については、両町ともに確認できなかったと報告した。
パネルディスカッションでは、両町の文化財担当者2人と上原教授を含む有識者5人が登壇。琉球大学の福島駿介名誉教授は「沖縄の城には直線的な城壁はなく、世之主の墓も同じ。よく見ると、元の地形を生かしながら造られている」。上原教授は「立派な家型の墓は、沖縄本島では大体権力者が築いているので、沖永良部にも確実に権力者がいたと言える」。瀬戸内町立郷土館の町健次郎学芸員は「世之主の墓を見た時、墓の周りに集落の感じがしない。もしかしたら、風水の思想で川の近くに墓が移された可能性がないか探ってはどうか」と話した。
会場には、ビーズ・勾玉ストラップ作りや拓本体験、人骨模型の組み立てなどのコーナーもあり、多くの人でにぎわった。
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墓正月体験コーナーには、シンポジウムの来場者が多く詰めかけ、昔ながらの風習を体験した。
トゥール墓を模した特別会場で宴が始まると、地元の小学生が手作りした伝統料理「タイモもち」などの食材が振る舞われた。
会場設営を手伝った中学生らも宴に加わり、大人たちと一緒に墓の前で手を合わせた。
和泊中1年の沖成あずみさん(13)は「墓正月を体験したことがないけど、こうやって多くの人と触れ合えるのがいい」と話した。