「登録」勧告受け常田守さんインタビュー

自然写真家・奄美自然環境研究会の常田守会長=奄美市名瀬=
 
遺伝子保護が登録意義
観光産業「エコツーリズムで」

 「今も、アカヒゲ、リュウキュウアカショウビンなどの声が当たり前のように聞こえてくる。こんな島はなかなかない」。奄美市名瀬・三儀山の木陰でそう話したのは、自然写真家(奄美自然環境研究会会長)の常田守さん。IUCN(国際自然保護連合)は10日、「奄美大島、徳之島、沖縄島北部および西表島」について評価結果を「登録」と勧告した。一夜明けた11日、長年奄美の自然保護活動に取り組んできた常田さんに胸の内を聞いた。

 「16~18年前から世界自然遺産へ向けて動き始めていた。(登録は)やっとここまで来たという感じ。7月(の世界遺産委員会)もこのまま登録になる可能性が高い」と語り、「勧告を受けたが、世界遺産登録の目的は自然の保護とその持続にある」と続けた。

 「奄美大島や徳之島はユーラシア大陸から切り離されて形成された島。大陸で絶滅してしまった生物が今も生き続けている。もし奄美の自然が破壊されてしまったら、ユーラシア大陸の全ての種がなくなってしまうということ。つまり、遺伝子の保護というのがとても大切で自然遺産の意味ともいえる」と、種の遺伝子保護という観点から登録の意義を明らかにした。

 また、「奄美は生物の種類が多いだけではなく、数自体もとても多い。これが多様性に富んでいると言われるゆえん。アマミノクロウサギなど特定の種だけ守っていればいいというのは見当違いで、希少種を普通種にするのが一番の目的」と語った。

 さらに、奄美の歴史や時間の流れについて「1万年~数万年単位で考えることが大切。例えば奄美にはイボイモリがいるが、イボイモリは2000万年前に現れた種。それが奄美に渡ってきたのが200万年前。まさしく生きた化石といえる。(奄美は)何百年も前から存在している種が今も生きている。そういう意味では時間の保護をしているとも言える」と話した。

 また常田さんは、自然の観光活用についても言及し、「世界遺産に登録されなければ奄美の未来はないと思っていた。しかし、観光の名のもとに環境を壊さないように取り組んでいかなければならない。大型バスで乗り付け、たくさんの観光客を受け入れるため森を切り開き、階段を作り、駐車場を確保し、というのはマスツーリズムのやり方。今、奄美ではマスツーリズムからエコツーリズムへの転換が求められている。奄美は十分に、観光産業としてエコツーリズムをやっていける」と話し、自然の保全と観光のバランスをエコツーリズムに見出した。

 「観光・エコツーリズムで『本物の奄美』をいかに売れるか、という点にこれからの未来がかかっている。本物とは、不便でハブもいるということ。その『本物の奄美』を見せられるかどうかをガイドは問われている」と、これからのガイドに求められる資質について述べた。

 リピーターの増やし方については「奄美は金作原を見てカヌーをやって終わり、などという島ではない。生き物を見せていかなければ。金作原に行かなくても観光になるような、気軽に楽しめるツアー・ルート作りが大事」と語り、「LCCが就航しているのはとてもよい傾向。行き来がしやすくなったので、奄美に住む人も増える。そういう意味でもリピーターを作りやすい環境にある」とLCC就航を評価した。

 今後行っていきたいことについて常田さんが挙げたのは人材育成。「環境の分野でも世代交代は必ず行われる。子どもの教育をするのが一番の近道。とてもやりがいを感じるし、今後さらに持続可能な観光を目指していかなければ」と未来を担う子どもたちに期待を寄せた。

 今後の展開については「アピールとPRの両方が必要。登録の勧告を受けたことで最初のアピールはできた。これからはマスコミや島民が中心となってPRを積極的に行っていく必要がある。ツアー中、オンラインライブをする観光客も増えてきた。」と情報発信の大切さを強調した。

 常田さんは「自然なくして奄美の未来はない」と語り、今後も自然保護活動に取り組む姿勢を示しつつ「ゆっくり山に入って写真や動画を撮って楽しむ時間も大事」とほほ笑んだ。

 (重田涼子)