守るには⑤ 保全への針路深る

ロードキルの事故現場(環境省徳之島管理官事務所提供写真)

 

NPO法人徳之島虹の会・美延睦美事務局長=徳之島伊仙町=

人材育成や普及啓発大切
「徳之島での取り組み」

 IUCN(国際自然保護連合)が「奄美大島、徳之島、沖縄島及び西表島」に「登録」勧告を出した5月、徳之島ではアマミノクロウサギのロードキル(交通死亡事故)が5件発生した。2008年から開始された調査の統計結果を見ると、徳之島における1年あたりのロードキル発生件数は18年に記録された19件が最多。月に5件という数字は非常に多いことが分かる。

 環境省徳之島管理官事務所の福井俊介国立公園管理官によると、アマミノクロウサギのロードキルは奄美大島のみならず、徳之島でも増加傾向にあるという。

 ロードキルが増えた要因は、▽ノネコ等の外来種駆除が進んだ▽国立公園に指定されたことで主要な生息地が保護された▽保護に関する住民等の理解が進んだ。これら3点が重なったことでクロウサギの個体数が増え生息域が拡大し、結果ロードキルも増加したのではないかと福井国立公園管理官は推測する。

 ▽対策

 これまでも、関係機関が協力して、徳之島では様々なロードキル対策が行われてきた。

 ハード面での取り組みは、看板の設置、路面標識の印字、減速帯の設置など。

 同時に普及啓発活動にも力を入れており、ロードキルに興味・関心を持ってもらおうと、ロードキル防止のためのマグネットを作成。警察署と連携して、運転免許更新講習の際に、一人ひとりにパンフレットと一緒に配布しているという。

 その他、飲食店でのチラシの設置や、レンタカー業者に協力を仰ぎ車両にステッカーを貼ってもらうことで、観光客への周知も合わせて行っているという。

 また、地元のケーブルテレビでロードキル防止のCMを流す取り組みも。「CMを流すことで、イメージしやすくなり、自分事として考えてもらえるのではないか」。福井国立公園管理官は分析する。

 ▽指摘事項受けて

 「希少種の交通事故死の減少を」というIUCNからの指摘事項。福井国立公園管理官は「勧告の有無に関わらず、ロードキルの問題は今までも、そしてこれからも継続的に取り組んでいくべき課題」と前置き。そのうえで「全ての道路にフェンスや柵を設置することは現実的ではないが、交通事故が多発しているところに関係機関が協力して設置するのは良いかもしれない」。ハード面の強化に前向きな姿勢を示す。速度制限等の規制については「有効だとは思うが、小さな生き物が道路に出てくるかもしれないという意識を持つことがより大事。例え時速20キロで走っていても、生き物の存在に気づかなければ、ロードキルが起きてしまう。自分が注意できるスピードで走るのが一番大切」と語った。今後は「引き続き普及啓発活動に取り組んでいきたい」「夜間の運転に注意すること。しっかりとライトを点灯すること。すぐに止まれるようなスピードで走ること。そういった基本的なことを心掛けてほしい」。福井国立公園管理官は呼びかけた。

 ▽徳之島のオーバーツーリズム

 今年設立10周年を迎えたNPO法人徳之島虹の会。青少年健全育成活動から始まった同会は「島の宝を伝えていく活動」に取り組み、徳之島で唯一の自然保護団体として活動している。近年は特に、世界自然遺産登録の推進や希少野生生物の保護活動、自然環境保全活動、エコツーリズムの推進などに積極的に取り組んでいる。

 同会の美延睦美事務局長は「遺産候補地の中で自然保護活動を一番頑張らなければならないのは徳之島」と明言する。徳之島の総面積は2万4785ヘクタール。これに対し、推薦地面積は2434ヘクタール(19年提出の推薦書より)。徳之島の推薦地面積は、総面積の10%ほど。世界自然遺産の推薦地の割合で見ると、四つのエリアの中で徳之島が一番狭いということになる。「狭いということは、それだけ自然にかかる負荷が大きく、失われるスピードが早いということ」と美延事務局長は指摘する。

 「島全体が守られる仕組みは必要。他の世界自然遺産登録地のように、入島制限など何らかの規制を設ける必要はある。また、河川の整備は行政しかできない」と語る一方、「それ以外は住民の意識や行動次第で変えることができる。島のことは島の人が頑張っていかなければならない」。具体的には「例えば、ごみを捨てる人がいなければそもそもボランティア清掃活動なんて必要ない。捨てない人を育てれば問題は問題ではなくなる。だからこそ人材育成や普及啓発活動が大切」と美延事務局長は強調する。これはオーバーツーリズムにも応用できる。

 「オーバーツーリズムの問題も、エコツアーガイドを増やすのがポイント。なぜならエコツアーガイドは自然を守るのが仕事だから。そういう人が増えれば、自ずと自然は守られる。徳之島は農家の方が多い。休みの日や繁忙期ではない時期、夜のナイトツアーなどでエコツアーガイドの仕事をすればいいのでは」と提案する。 この観点から、美延事務局長は今後エコツアーガイドの育成に力を入れると話す。ガイドの質の向上、および人数を増やし育成する活動を進めていくという。「何よりもまず、島民に島のことを知ってもらうことが大事。小さいことの積み重ねが世界を変える」。

 歯切れよく語る美延事務局長。その表情からは「自分たちの島は自分たちで守る」という覚悟がにじみ出ていた。