新時代あまみ 共生を問う=下=

新時代あまみ 共生を問う=下=

NPO法人TAMASU代表の中村修さん。海岸などを舞台に国直集落で進められてきた体験交流事業は今後、村内他集落への波及を目指す

昔ながらの景観や交流の大切さ
 体験型観光

 昨年末、大和村の国直集落では「集落づくりと観光」に関するアンケート調査が行われた。18歳以上の集落民を対象にしたところ調査票の回収率は66%で、56人(男30人、女26人)が回答した。なお、国直集落の人口は116人で、村内他集落が少子高齢化で人口減が進む中、50年間現状維持が続いているという。

 調査結果をみてみよう。住み心地は「とても良い」(40%)「まあ良い」(42%)と現状に満足している回答が8割以上と高い割合となった。これからも国直に住み続けたいかを問う居住意向は、「続けたい」が54%と半数を超えた。その理由では「家・土地」(37%)に続き、「愛着」(24%)が上位だった。

 アンケート調査をしたのは、同集落で観光客などを受け入れての体験交流事業に取り組むNPO法人TAMASU(タマス)代表の中村修さん。「集落への愛着への強さ、これは国直の誇りだと思う。若い子や出身者も集落への愛着を抱いている」。

 ▽景観への誇り

 愛着の根底には何があるだろう。中村さんは語る。「集落民の一番の自慢は白い砂浜が美しい国直海岸。海水浴やウミガメ観察、夕日のスポットとして一年を通じ多くの観光客が訪れるが、海岸は観光地と同時に、集落の人々の暮らしと密接に関わっている」。白砂の沖には今なおサンゴが残るため、漁労によって海産物という海からの恵みを享受できる。また、夏場など夕暮れ時には老若男女を問わず集落民が集まり海岸は、まさに社交場としてにぎわう。

 そんな白砂の海岸も景観面で岐路に立たされたことがあった。2004年の台風の際、高波が護岸を越えて海岸近くの住宅まで押し寄せた。護岸と住宅間の道路は海水により川のようになり通行に支障が出るほど。防災で行政側は護岸の1㍍かさ上げを集落に提案。これに対し集落の総意は「護岸のかさ上げには賛同できない。計画の中止を」。理由は「護岸が高くなると海が見えなくなる」だった。結果的にかさ上げ計画を見送ったことで国直海岸の景観は保たれ、台風による越波が発生しても周辺の住宅が損壊するような被害は起きていない。サンゴや砂浜の存在は、波の勢いの低下に役立っている。

 アダンやグンバイヒルガオが繁茂し昔ながらの海辺の景観が残る海岸。現在は奄美大島の中でも貴重だ。コンクリートだった護岸も、この景観に沿うようにサンゴの石垣に生まれ変わった。「美しい砂浜の風景だけでなくフクギ並木など集落内の景観をそのまま残し、保全してきたことで自然との共生によって成り立つ体験型観光が可能となっている」と中村さん。15年のNPO発足後3年で、集落と一体となった取り組みにより中村さんは延べ約7500人の観光客を受け入れてきた。
 これまでの歩みを振り返り脳裏に刻まれている言葉がある。集落行事やNPO活動などで一緒に汗を流した高校生が卒業後、島外に立つとき、見送りに駆け付けた中村さんにこう語った。「国直が好き。東京に出るけど、必ずまた戻ってきて修アニと一緒にTAMASUの仕事がしたい」。中村さんの目頭が熱くなっていた。

 ▽地域全体へ

 中村さんの取り組みは新たな一歩へと踏み出している。18年度の奄振交付金に創設された「リーディング・プロジェクト推進枠(チャレンジ枠)」に選定されたことから、800万円の交付金を活用し、これまでの活動を地域全体に広げるため、ノウハウがあるTAMASUが窓口となり、他集落の体験型観光プログラムの作成や民泊の態勢づくりなどを進めている。事務的な作業も増えてきた中、交付金によって人件費が賄えることから初の常勤スタッフ1人を採用した。

 活動を全体で推進する組織として「大和村集落まるごと体験協議会」も立ち上がった。中核団体はTAMASUだが、村企画観光課や国直集落も事業支援している。協議会には「宿泊」「体験」「食事」を受け入れる村内の業者が加入している。観光客を受け入れての体験型観光プログラムを推進するには、宿泊・体験・食事という三つの機能が欠かせない。

 他集落での受け入れに向けての説明にあたり中村さんは強調した。「民家での宿泊の受け入れは室内の改修や増設の必要はない。空いている部屋の活用でいい。特別なもてなしの提供ではなく、ホテルや旅館では味わえないふだんの暮らしの体験、地元の人との交流を観光客は求めている。食事も準備が大変なら専門に対応している業者が提供できる」。

 中村さんが繰り返し聞いてきたのが「シマには観光客が喜ぶようなものは何もない」。だが、観光客が興味を示すのは昔ながらの景観の中での暮らしや伝統文化、そして地元の人々の輪に加わっての交流だ。食事も地元の食材の取り入れにこそ味わいを感じる。「地元の人が『あたりまえ』と思うものこそ観光客は喜んでくれる。地元の人々と会話を交わすなど交流によってSNSでつながり、その縁から何度も訪れる観光客は少なくない」。こうした受け止めは国直集落を舞台にしてきた活動によって裏付けられたもので、他集落への波及で説得ある説明ができる財産となっている。

 行政からは奄振の交付金を活用し、活動で必要な施設整備(ハコモノ整備)の支援を打診されることもあるという。中村さんは慎重だ。「地域おこしにつながる観光を推進したい。観光振興のための施設整備にするためにも、まずは地域に何が求められるかをしっかりとみんなで話し合っていきたい。地域の気持ちが表れるようなハートが伝わる施設整備でなければ活用されない」。
 NPOが窓口となり民間主導での地域おこしによる観光振興。民間の主体性を後押しする交付金の在り方にこそ、これからの共生社会が映し出されるかもしれない。
                                           (徳島一蔵)