IUCN8日から奄美入り

IUCN8日から奄美入り
対策進む一方で課題も
世界自然遺産再推薦後の状況

 「奄美大島、徳之島、沖縄島北部及び西表島」の世界自然遺産登録は5日、ユネスコ(国連教育・科学・文化機関)の諮問機関であるIUCN(国際自然保護連合)による二度目の現地調査が始まった。奄美は8~10日にかけて、徳之島と奄美大島にIUCNの専門家2人が来島し調査予定。前回のIUCNの「登録延期」勧告以降、政府は地元や関係機関と連携し指摘事項への対策に取り組んできているが、一方で希少動植物の盗掘・盗採が相次ぎ、絶滅危惧種が猫などに襲われる事案が発生するなど課題も残っている。関係者からは、「人間と自然の関係を考え直す時期でないか」や「教訓として保護意識を高め、再発防止に努めていく」などの意見が聞かれた。

 

□取り組み

 奄美・沖縄の世界自然遺産登録は昨年5月、IUCNから推薦内容の抜本的な見直しを求める「登録延期」を勧告され、同6月に政府はいったん推薦を取り下げて指摘された課題などの解決を図り推薦書を再提出する方針を決定。推薦書では指摘を受けた推薦地の分断状況解消について、1島に一つあるいは二つにまとめるよう修正。前回推薦時の4島24カ所が、5カ所に編成された。

 包括的管理計画の修正で推薦地や緩衝地帯の周辺地域を「周辺管理地域」に変更。周辺管理地域では持続可能な利用、外来種対策、希少種保護、普及啓発など保護管理の取り組みが、地域の日常的な参画で進められることが重要視されることに。

 外来種対策も進み、ノネコ管理計画を策定し山中からのノネコ(野生化した猫)の捕獲排除が昨年7月からスタート。観光客増大による過剰利用を防ぐため今年2月27日から、奄美市名瀬金作原では利用できる車両や人数を規制しガイド同行を求める利用適正化ルールの施行運用が始まっている。

 

□課題

 今年3月には、希少な動植物の密猟・密輸対策連絡会議(事務局・環境省沖縄奄美自然環境事務所)が発足した。国や県、民間団体などが連携し、違法採取対策や啓発活動に取り組むことなど協議。違法採取対策として、奄美群島国立公園管理事務所などが行う休日や夜間のパトロールの回数・期間を増やし監視態勢を強化。だが7月に奄美大島の特別保護地区では、標本作成目的とみられる違法な昆虫トラップ10基を発見。トラップにはセミやトンボなど約100匹が入っていたが、全部死んでおり条例規制種のアマミシカクワガタも含まれていた。事件は警察が自然公園法違反で捜査に入っている。

 こうした取り組みが進む中、徳之島では犬に襲われたとみられる国の特別天然記念物アマミノクロウサギの死骸が合計8匹発見された。また奄美大島では山中で猫が絶滅危惧種アマミトゲネズミを捕食しているとみられる瞬間が撮影されるなど希少種に殺傷被害が発生。

 奄美大島でネコ問題の普及啓発に関わるACN(奄美ネコ問題ネットワーク)の久野優子代表(奄美猫部部長)は、「事実を受け止め、自然と人間の関り方を考え直す契機になれば。生後1カ月もない子ネコでも捕食しうる。猫問題は人間が引き起こしたもの。奄美大島ではペットを飼うことが、自然に与える影響が大きいことを理解してほしい。猫は外で飼うという考え方を改め、多くの人にもう一度猫との関わり方を考えてもらいたい」と話した。

 NPO徳之島虹の会の美延睦美事務局長は、クロウサギ殺傷をショッキングで残念な事件と受け止め教訓にすることを提言する。「事件で住民の保護意識が高まってきたのを感じる。それは事件後のボランティア清掃に、300人もの参加者があったことでも明らか。不幸中の幸いだが関係機関が連携して、素早く対応できたのは評価できる。教訓にして二度と起きないように取り組んでいきたい」などと語った。

 IUCNの専門家は8日午後から徳之島に入り、10日までに奄美大島と合わせ2島を現地調査する。

 IUCNは現地調査などを踏まえ、来年5月ごろに評価結果を勧告。来年夏ごろの世界遺産委員会で、奄美・沖縄の世界自然遺産登録の可否が判断される。