コロナ禍の与論

 開店の準備をする居酒屋「かよい舟」の山田幸寛さん。テーブルにはアクリル板が設置されている=与論町=

売上大幅減 模索続ける飲食店
新しい観光スタイル確立へ

 【沖永良部】「島外から人が来ない限り、収入源がないと分かった」――。2月下旬、与論町で居酒屋「かよい舟」を営む山田幸寛さん(52)は、開店の準備をしながら話した。

 茶花の商店街に店を構えて25年になる。2018年に店を改装し、19年は過去最高の売り上げを記録。その矢先、新型コロナウイルスの感染拡大で状況が一変した。

 昨年4~5月の緊急事態宣言で客足が遠のくなか、7月のクラスター発生で約50日間、11月の2回目のクラスターでは1週間の休業を強いられた。

 「クラスターの発生で人が動かなくなったが、生活のために休むわけにはいかない」。

 売り上げは、コロナ前と比較して約60%減った。夜だけの営業では経営が維持できないため、ランチやテイクアウト用のメニューを新たに作り、これまでの営業時間(午後5時~午前0時)を、昼(午前10~午後2時)と夜(午後6~10時)に変更した。

 昼の営業は一緒に働く家族に任せ、朝のバイトも始めた。宿泊施設の朝食の準備と旧役場庁舎の解体のバイトだ。

 「場所が近いからできる。東京だったら移動だけで時間がかかってしまう。解体現場は店から歩いて行けるので」と笑う。従業員全6人を解雇せずにコロナ禍の1年を乗り切ったが、「この生活を続けていくのはちょっと」と不安をもらした。

 1回目のクラスター発生時は不十分だった感染防止対策にも注意を払っている。町のチェックリストに従い、テーブルにはアクリル板を設置。のれんやメニュー表、座布団など複数の人が触れるものは置かないようにした。客席も56席から20席に減らした。

 昨年末、山田さんを組合長に町内53店舗が加盟する飲食店組合を立ち上げた。各店舗でばらつきのあった感染対策を統一するためだ。対策優良店にはステッカーを配布、その店で使える飲食店応援企画第1弾として「500円割引クーポン事業」をヨロン島観光協会と連携して始めた。「イベントはできないし、人も呼べない。いまはクーポンで人を動かすことがベスト」と話した。

 組合長として各店舗を視察し、コロナ収束後の飲食業の在り方を毎日考えている。「コロナ前に戻るとは思っていない。収束して欲しいが、マスクを外し、アクリル板を外せるようにはならない。私たちがやり方を変えていくしかない」と前を向いた。

 町では、今年2月から電動キックボードの実証実験を始めた。環境に優しく、コロナ禍でも楽しめる観光ツールとして期待されている。

 2月23日、公道での試乗会があり、町に導入された電動キックボードの事業者「Rimo」の石井光哉代表は「いままで走ったことのないコースを探索したり、目的地に行くまでの寄り道も楽しめたりできる」と利便性の高さをアピールした。

 3月14日には電動キックボードを使ったモニターツアーを開催。従来のコースに加えて、車で通過できなかった集落内や充電ステーションのある観光施設をコースに入れた。

 町は島全体を電動キックボードで走れるように充電ステーションの整備を進めており、主に飲食店や観光施設に設置することで新規客の取り込みを狙っている。

 町役場商工観光課の麓誘市郎さんは「町ぐるみで厳しく感染対策をしてきたため、経済が止まったままになっている。このまま何もしないわけにはいかない。これまでの取り組みをPRしていきたい」と話した。(逆瀬川弘次)