スピードトークで研究内容をコンパクトに説明する藤井さん
【東京】サンゴ礁で起きている様々な問題を解決するための知恵をしぼりあう場として設立された日本サンゴ礁学会の第18回大会が26~29日の4日間、慶應義塾大学三田キャンパスで開かれ、鹿児島大学国際島嶼教育研究センター奄美分室特任助教・藤井琢磨さんの共同研究チームが参加した。深い水深を好むセンベイサンゴ群落が水深の浅い龍郷湾内で見つかり、珍しい事例として発表。今後学術的な調査を進め、客観的な価値を報告していく考えだ。
同調査研究は「奄美大島龍郷湾より見出されたセンベイサンゴ群落」と題し、藤井さんをはじめ、奄美海洋生物研究会の興克樹さん、宮崎大学の深見裕伸さんら、地元や島外の専門家と共同で進められた。
調査対象となった龍郷湾内のセンベイサンゴ属が優先するイシサンゴ群落は、5年前の奄美豪雨災害の際にその存在が報告されていたが、学術的な価値は明らかにされていなかった。同センター奄美分室が今年4月に開所したのに伴い赴任した藤井さんが、奄美の海洋生物に詳しい興さんの案内で龍郷湾内のサンゴの群落を確認したところ、通常水深30㍍以深で見つかることが多いセンベイサンゴ群落が、水深10~18㍍の斜面上に幅100㍍以上にわたって断続的に生息。浅い水深に広がる群落は珍しく、驚いたという。
こうしたことから「南西諸島内湾環境の生物多様性を理解する上で貴重な知見」として学術研究の必要性を提起。センベイサンゴ属は形態の種内変異が大きく、正確な種同定が難しい。そのため、今回発見されたセンベイサンゴ属も生息水深の違いによって群体形が変異している可能性もあるとし、採集標本に基づく分類学的精査を行い、センベイサンゴ属の分類学的再検討が必要だとした。今後の課題には、奄美大島に多い内湾の十分な調査がなされていないため、内湾の生物多様性調査などをあげている。
また、世界自然遺産登録への取り組みも陸上の生物がメインになっていることから、「貴重な海洋生物の存在そのものを認識してもらいたい」と語り、「山、川、海のつながりを意識することで奄美の自然遺産の価値も高まるのでは」などと話した。
こうした研究は28日に77チームが参加して行われたポスターセッションで発表。藤井さんは、これまでの調査研究の成果をまとめたポスターを掲示して、訪れる専門家などに内容を説明したほか、研究内容を2分間で説明するスピードトークを行い、多くの人の関心を集めていた。
藤井さんは、「濁りやすい内湾は、濁りやすいことで深いところのように太陽光が届きにくくなり、そうした環境がセンベイサンゴ生育の要因となっているのかもしれない。人の影響が大きい内湾環境が、センベイサンゴの生息する要因になっているのではないか」などとし、今後、様々な角度から学術的な研究を進めていく考えだ。また、学術的な価値が確立すれば、「将来的には観光資源としての価値も高まるのでは」と話した。
同学会の最終日となる29日には、明治大学の宗教人類学者・中沢新一さんと水中写真家の中村征夫さんをゲストスピーカーに、専門家をパネリストに招き、「サンゴ、〈野生の科学〉と出遭う」と題した無料公開シンポジウム(午後1時半~同4時半)も行われる。