顧客の励まし「心の支え」

平井果樹園に寄せられている島外の顧客からの励ましの便り

若手農家が率先して参加している奄美市でのテックス板設置による防除作業

管理作業続け「次の年は届けたい」
タンカン廃棄の果樹農家 防除作業にも協力

「毎年楽しみにしていたのに、とても残念」「出荷OKの連絡を待っています」――。ミカンコミバエの侵入で緊急防除が行われている奄美大島では、奄美市で果樹農業の柱・タンカンの廃棄処分も始まった。独自の販売ルートを持つ大規模農家もいるものの移動規制によりタンカンの島外出荷ができない中、長年取引が続く島外の顧客からの励ましの便りが、こうした農家の心の支えになっている。

奄美市名瀬の山間部、本茶団地にある平井果樹園。全体面積は約3・5㌶もあり、現在の園主は三代目となる平井孝宜さん(34)。生産されているタンカンはJAへの出荷だけでなく、島外からの注文者に直接発送。「父の代から注文があり、30年以上も取引が続く顧客もいる。一人で6~7件とまとまった量の大口注文もある」(平井さん)。

顧客管理は妻のかおりさん(34)が担当。毎年11月1日から注文を受け付けているが、これに備えて10月20日には約600人に注文案内のダイレクトメール(DM)を発送。受付開始と同時に約300件の注文があったという。ところが11月4日にタンカンの島外出荷禁止が決定。かおりさんは注文者一人一人におわびの手紙を送った。「2016年2月のたんかん出荷停止のお知らせ」と題した文面では、「心待ちにして頂いておりますお客様に多大なるご迷惑をおかけ致しますこと、深くお詫び申し上げます」とした上で、再びタンカンが出荷できる日が来るまで「家族全員で畑を守っていく所存」と決意を込めている。

高品質のタンカンの安定した供給により島外の顧客と築かれている信頼関係。36年前に根絶されたはずのミカンコミバエの侵入、発生確認により注文に応えることができない事態に直面。平井果樹園には顧客から励ましの便りがはがき、FAX、電話で今も寄せられている。「平井果樹園ファンクラブ」という顧客の一人。はがきには、こんな言葉を綴っている。「手塩にかけて育ててこられた、たんかんですもの。ご心痛の大きさ、お察ししています。解禁のとき、いつまでも待っています。めげないようにエールを送っていきます」。

孝宜さんは「移動規制で島外出荷禁止が決まった当初は、このままタンカンを生産し続けることができるか不安でいっぱいだった。でも顧客のみなさんの励ましにより、今は奮い立っている。行政機関と協力して農家も防除に取り組み一日も早く根絶して、次の年は必ずタンカンを届けることができるよう、これまで通りの管理作業を重ねていきたい」と語った。

皮肉なことだが今期のタンカンは豊作傾向。前期は小玉が目立ったが、今期は台風の影響もほとんどなく気象条件に恵まれ果実の玉伸びがいいという。生産量は奄美大島全体で約1500㌧が見込まれ、このうち6割を主産地の奄美市が占めそう。21日から奄美大島選果場へのタンカン持ち込みが始まり、検量や価格設定など必要な手続きが終了したものから奄美市では果実の廃棄処分を行っている。大規模農家を中心に持ち込まれており、初日は約50㌧が廃棄され、重機で埋却処分された。

「収穫間近の果実を初日で持ち込んだ。果実の生育は例年より早く緑が抜け、七~八分の着色状態。一年かけて育てた果実を取り、これを捨てなければならないと思うと悲しい気持ちになる。果実の廃棄作業を農家はやりたくない。何も考えずに無心でしないと、しんどい」(孝宜さん)。これは全ての農家に共通する思いだろう。

奄美市では若手農家が行政とともに防除作業にも取り組んでいる。名瀬・住用・笠利と地区ごとに行っているテックス板設置だ。県と市の職員のほか、大島地区農業青年クラブと奄美柑橘=かんきつ=クラブも加わっており、毎回16人前後の農家が参加しているという。こうした防除作業を農家が率先して行うことで、奄美市では職員が広報活動や廃棄手続きの事務作業に専念でき、廃棄計画がスムーズに進む要因になっている。

「早期根絶」「できれば廃棄はポンカン、タンカンの柑橘で止めたい」。生産農家と行政機関の一致した願い。対策を強力に展開する原動力でもある。

(徳島一蔵)