大島地区消防組合龍郷消防分署と野村特殊工業が共同開発したAEDの屋外型収納ボックス
心肺停止状態などの緊急時に使われる「AED」(自動体外式除細動器)。 電気ショックを与えて心臓の動きを正常に戻すための医療機器で、耐用年数を保つため屋内での保管・管理が一般的だが、龍郷町では昨年12月、同町手広海岸のトイレ・シャワー施設入口前に、この“精密機器”を設置した。機械の弱点とも言える潮風にさらされ果たして大丈夫か。大島地区消防組合龍郷消防分署が町内企業と共同開発した収納ボックスにその秘密が隠されている。
同消防分署によると、町内では現在、各小・中学校や、学校から離れた地域の公民館などに計30台のAEDを設置している。
精密機器であるAEDは、故障の要因を招かないよう適切な温度、湿度での保管・管理が求められ、防犯上の理由からも屋内で保管されているケースが多い。
だがその場合、夜間など時間帯によっては施設建物が施錠され、緊急時、すぐに持ち出せないケースがあるなど課題もあるという。
手広海岸へのAED設置は、サーフィン目的など近年、同海岸を訪れる観光客が増えていることを受け、トイレ・シャワー施設の改修に合わせて検討されたもの。
防水性で使用環境条件を保つ収納ボックスはすでに既製品も存在するが、電動ファンを活用し外から空気を送り込むタイプのため、サビつく原因となる塩害には弱く、同分署では海岸沿いでの設置は不向きと判断した。
そこで町内の野村特殊工業㈲=野村真仁社長=に、1年を通して波が高くサーフィンのメッカで知られる手広海岸に屋外設置可能な「完全耐塩仕様」の新たなAEDの収納ボックス開発を依頼。
外から空気を入れず、密閉状態で中の温度、湿度など保管に適した環境条件を保つ仕組み。扉開放時は写真撮影、警報音、ライト点滅の機能もあり防犯機能も充実している。
同消防分署救急係の森一郎主査は「これなら24時間365日いつでも、だれでも、すぐに使ってもらえる。最初に開発を相談した大手企業にはあっさり断られたが、町内に引き受けてくれる企業があってよかった。地域の安心安全、観光振興の面でも絶対に必要と思い妥協したくなかった。無茶な要求で企業側を困らせたかもしれないが、納得の行くいいものができた。(企業に)本当に感謝」と語った。
一方、同社の野村社長は、「依頼された時は、限られた予算の範囲で本当にやれるか正直、自信はなかった。ただ消防の森さんがあまりに一生懸命だったので、企業主というよりは町民の一人として何とかその熱意に応えたいと思い引き受けた」と快諾というわけではなかったとし、「屋外、しかも海岸沿いに設置されるため強度や防水性・断熱性などボックス表面の塗料選びなどは苦労した。示された予算内では試作品を作れず、コンピューター上で何度も計算し直して試行錯誤を重ね、一発勝負だったが、何とか依頼された内容のものが出来てよかった」とも話した。
同町では手広海岸での1台をしばらく試験的に運用し、その後、町内で徐々に普及させていきたい考え。緊急時以外の取り出し、いたずらなどしないよう注意も呼び掛けている。