多様さの先に

多様さ上

介護保険サービス利用者に一番近い存在のヘルパー。介護の質を高めるため定期的に行っている事業所の情報交換会

要支援向けサービス移行
市町村主体、事業所に不安も

 介護保険制度が施行された2000年、奄美市に介護保険事業所連絡協議会が発足した。居宅、訪問、通所、リハビリ、福祉用具などの介護支援に取り組む市内の民間事業者が加入している。このうち事業所数が多いのがホームヘルプサービスなどを行う訪問介護(25事業所)と、デイサービスの通所介護(19事業所)。

 連絡協では実施するサービスによって部会を組織。介護保険事業所のネットワークが形成されており、組織的な体系を生かす形で各部会の責任者などが参加して定期的な研修会や情報交換会を開催。全体会のほか、各部会で重ねることでサービスの質向上につなげているが、従事者が日々努力を重ねる一方で、将来への不安も頭をもたげつつある。なかでも数の多い訪問と通所の介護の現場で不安や戸惑いが広がり始めている。

 ▽生活援助

 介護保険の見直しで2015年度から、新たに「総合事業」が導入された。対象となるのは要支援の人向けのサービスで、訪問介護と通所介護が総合事業に移る。高齢者の生活を支え介護を予防する多様なサービスを、「地域住民の力を生かしながら増やす狙いがある」と言われている。市町村が主体になり、地域の実情に応じた取り組みができる地域支援事業で、全国すべての自治体が来年の17年4月までに総合事業に移行しなければならない。

 移行後は全国一律の基準ではなく、市町村が独自に内容を工夫できるのが特徴だ。国のガイドラインでは従来の基準に基づく「現行相当」のサービスのほか、「基準を緩和したサービス」「住民主体の支援」などの類型を示している。種類を増やすとともに、その中から一人ひとりが適したサービスを利用できるよう目指している。ここが新事業のポイントだろう。あくまでも「利用者の目線に立った」サービスでなければならない。

 「介護予防事業(要介護状態等ではない高齢者を対象に06年度創設)の実施の際と重なる。ヘルパーが在宅訪問で行う支援(身体介護、生活援助)のうち生活援助が介護保険サービスを使って行うことができなくなるのではないか」。訪問介護部会の運営などに携わっている、わんわん介護ネットのサービス提供責任者・平裕奈さんは語る。

 訪問介護のうち、介護認定で軽度とされる要支援1、2の認定者の場合、実施できる生活援助は週1~2回で、1回あたりの時間は60分だ。援助内容は室内の掃除や買い物、洗濯、入浴の準備など。「ヘルパーは家政婦とは違う。介護の専門職なのに軽くみられているような気がする。利用者に一番近い存在であり、身体面だけでなく心理面も理解することで寄り添うことができる立場。それによって支えになれる。生活援助を雑用的にとらえてほしくない。買い物一つにしても利用者一人ひとりの症状などによって違いがある」(平さん)。

 症状などを十分に把握しないまま食事用の買い物をしたら、どうなるだろう。生きるための食べる意欲を喪失したり、栄養面の問題から症状の悪化を招くかもしれない。

 「利用者の自宅を訪れるヘルパーは、われわれケアマネ(介護サービスの給付計画を作成し、他の介護サービス事業者との連絡、調整等の取りまとめを行うケアマネジャー)の情報源。家族が同居していない単身高齢者世帯の場合、常に変化する心身の状態を的確につかむ上で、課題を発見できるヘルパーは貴重な存在」。(有)わんわんネットの代表で介護支援専門員の中里浩然さんは強調する。

 中里さんの事業所では認知症の高齢者のほか、半身麻痺などの障がいを抱えた人も対象に訪問介護を行っており、ヘルパーの存在が実態に即した適切な介護を生み、自宅での生活を可能にしている。

 介護福祉士として約10人のヘルパーをまとめる平さん。質を高める取り組みに力を置く。ヘルパー全員が顔をそろえての情報交換会、認知症などをテーマにした勉強会への参加、介護プロフェッショナルキャリア段位制度(知識・スキルの評価)受講、キャリアアップへ介護福祉士講座も受講させている。専門職としての知識やスキルの向上のためだ。

 「介護保険事業所として市町村が主体となる今回の新たな事業に私たちも関わっていけたら。地域づくりにも役立てる事業に参画し、共にシマを盛り上げることができたら」。中里さん、平さんは願いを込めた。

 ▽軽度の人対象

 要支援認定者の総合事業移行で、最も影響を受けるのがデイサービスと言われている。この通所介護を担う事業所の集まりである通所部会の代表を務めるのが白浜幸高さん=デイサービス和月・理学療法士=。

 白浜さんの事業所では専門職である理学療法士や看護師らも加わることでリハビリを中心にしているが、一般的にデイサービスは自宅から施設に通ってもらい健康管理や日常生活援助、食事やレクリエーションなどのプログラムを提供している。介護が必要な状態になっても福祉施設等に入所することなく住み慣れた地域で暮らせるよう、自立した日常生活の支援と同時に、自宅にこもることなく外出し他の利用者と交流することで孤独感解消にもつなげている。

 一方、病院を経営する医療法人が開設しているのがデイケア(通所リハビリテーション)。数ではデイサービスの方が圧倒的に多い。要介護以外の軽度の人々を対象にしているデイサービスは総合事業によって「地域に移行する」とみられている。

  × × ×

 新しい制度である総合事業は、既存の介護事業所による従来のサービスに加えて、NPO、民間企業、ボランティアなど地域の多様な主体を活用して高齢者を支援すると同時に、元気な高齢者が支え手側に回ることもある。総合事業の充実により、介護予防と支え合いの意識を地域に根付かせることができるだろうか。事業推進で欠かせない多様さを問う。
 (徳島一蔵)