解除の先に(下) ミカンコミバエと奄美大島

ミカンコミバエの侵入経路を把握できるトラップ

警戒と対策、平時も欠かせず

 若手果樹農家のリーダーとして行政が進める防除作業にも率先して取り組んできた奄美市名瀬の平井孝宜さん。「来年3月末まで緊急防除が続き、タンカンは2回島外出荷できないとなると影響が計り知れないと不安だっただけに、早期に解除できホッとしている」と話す。

 農家を代表して国への要請活動にも参加。農水大臣や地元選出国会議員らに早急な対策と支援を直訴したところ、国の責任で根絶(防除)や再生産支援に全力をあげるという言質を引き出した。「貴重な経験をさせていただいた。影響は農家だけでなく流通業者などまで及び、奄美大島の産業に大打撃となったが、当初の予想以上に順調に対策が進んだ。地域全体で危機感を共有し、早期根絶へ一つになった成果ではないか」と平井さんは振り返ると同時に、緊急防除解除後の今後の取り組みについてこう提案する。

 今後も「飛び込み」という侵入リスクがあることから、①平時においても沖縄並みのテックス板散布・設置(南部年4回、北部同2回)②誘殺情報の常時公開(植物防疫所ホームページで)③3回目の発生を防ぐためにも非常時に瞬時に対応できるよう対策本部など今回の事態で設置された組織の維持(大島支庁、JAの部会等)④外海離島という条件下にある奄美に適した防除マニュアルの確立。「果樹農業は若い後継者がおり、Ⅰターン者も将来に希望をもって生産に取り組んでいる。農家と行政が協力・連携しながら産地づくりを進めているだけに、今回を教訓に再発生を繰り返すことのないよう安心して生産できる環境を構築してほしい」(平井さん)。

 ▽適切か

 解除後の防除の在り方で専門家は「沖縄並み」に慎重だ。トラップの設置とともに誘殺にかなりの効力があるテックス板が散布されると、オスの成虫がテックス板の方へと誘引され、トラップによる誘殺に支障が出るおそれがあるためだ。病害虫の生態に詳しい研究者は説明する。

 「散布密度を考えるにあたり、これまでの防除で行ってきたテックス板の数や散布時期が本当に適切か、時期と量が実態に沿ったものかということも検証しなければならない。効率的で集中的に切れ目のない防除を進めるためにも、まずはトラップによってミカンコミバエの侵入経路(どこから入ってきたか、その密度は)を明らかにし、それを捉えた上でテックス板を散布した方がすぐに抑圧できる。こうした流れを体系化した方が現実的ではないか」

 一方で生産者は沖縄並みの回数によるテックス板優先の防除を求めている。テックス板優先か、トラップで侵入経路を把握した上でのテックス板使用か――。どちらが奄美の実態に適しているだろう。

 テックス板を優先するとトラップ調査の感度が鈍るという意見もある。侵入を防ぐ予防のための防除では好ましくないかもしれない。ミカンコミバエが侵入すると作物生産が脅かされ死活問題になる生産者も納得できるよう結論を出すべきだろう。

 関係行政機関も「生態に詳しい専門家の意見も聞きながら最も効果的な防除体系を確立し、二度と今回のような事態を繰り返さないようにしなければならない」との決意を示す。トラップで誘殺されているのはオスの成虫だ。メスの成虫の侵入は把握できない。メスの活動を示す寄生果がないか果実調査も引き続き欠かせない。

 温暖化で南方系害虫の北上がみられるだけに水際で侵入を防止する防疫の在り方は全国的な問題だ。奄美で有効な防除体系が確立できたら国内だけでなく世界の島嶼部のモデルになるだろう。

 ▽平時の対応

 緊急防除の解除を受けて平時の対応については再発生を防ぐ初動の取り組みを県大島支庁も検討中だ。

 大島支庁農林水産部の東洋行部長は「省令では来年3月末までが移動規制期間だったが、昨年12月22日以降ミカンコミバエの誘殺がなく、移動規制期間が3分の1で終了し安堵している。ポンカンやタンカンの廃棄処分では心が痛んだが、生産農家や地域住民の理解と協力で防除対策を進めることができ、これが早期解除につながった」と語るとともに、今後も寄生しやすいグアバなど不要果実の除去への協力を呼びかける。

 地域の協力は解除後も大切だが、初動対応の具体的な姿について東部長は国の機関である植防と連携しながら、大島支庁農林水産部として防除の手順となる作業計画の策定を挙げる。計画には▽平時から警戒を怠らず、発生時には迅速な方針決定を行うための組織体制の整備▽平時におけるトラップ調査の方法や発生時における同定・連絡体制▽初動における防除方法など関係機関がとるべき行動に関する具体的な記述―のほか、沖縄との情報交換の継続や侵入に関する情報収集と同時に地域への情報提供も盛り込んでいく考え。

 この侵入に関する情報提供(公開)については現在、植防がホームページで行っている誘殺情報の公開について継続の必要性を農水省側も理解している。

 今後も「飛び込み」などでミカンコミバエの誘殺が確認された場合、速やかに防除に踏み出さなければならない。また、ミカンコミバエが侵入し寄生する「ホットスポット」になる可能性がある放任園対策も重要だ。警戒と対策。これを解除後も不動にしたい。