【決勝・鹿児島実―樟南】3年ぶりの甲子園を決めてマウンドの畠中(10)のもとに集まる樟南ナイン=県立鴨池
【鹿児島】第98回全国高校野球選手権鹿児島大会最終日は26日、鹿児島市の県立鴨池球場で24日に再試合となった鹿児島実―樟南の決勝があり、樟南が3―2で競り勝ち、3年ぶり19回目の夏の甲子園への切符を手にした。
初回、樟南が4番・吉内の左越え二塁打で2点を先制すれば、鹿実も四回、4番・綿屋の中前適時打で同点に追いつく。その裏樟南は無死満塁の好機に併殺の間で勝ち越した。五回、鹿実も無死満塁の好機を作るが、リリーフした樟南・畠中が無失点で切り抜けると、六回以降は二塁も踏ませない好投で1点差を守り切った。
優勝した樟南は全国大会(8月7日―・甲子園)に出場する。
試合結果は次の通り。
◇決勝 =県立鴨池=
鹿児島実
011000000 2
20100000× 3
樟南
【鹿】丸山、谷村―中村
【樟】浜屋、畠中―前川
▽二塁打 中村(鹿)、吉内(樟)
【決勝・鹿児島実―樟南】1回裏樟南一死二三塁、4番・吉内が先制の左越え二塁打を放つ=県立鴨池
2日間、計24イニング、6時間27分、最大のライバル・鹿児島実との死闘に競り勝ち、樟南ナインは、校歌の歌詞にある「無限の歓喜」を爆発させた。
チームの最大の武器である「投手を中心に守り勝つ野球」(前川大成主将)の真骨頂が初回から発揮された。
先発のエース浜屋が本調子でなく、先頭の加川にいきなり左前打を浴びる。左翼を守っていた吉内匠は、同じ種子島中出身のリードオフマンが打ったことで危機感が芽生えた。2番・佐々木の打球は後方への大飛球だったが「相手を勢いづかせるわけにはいかない。がむしゃらに追いかけ」て好捕。ピンチを救いチームを逆に勢いづけた。
その裏、吉内は一死二三塁と絶好の先制機に値千金の適時二塁打を放つ。「点を取る」(山之口和也監督)ために、これまでの5番から4番に抜擢された期待に応えた。「投手を少しでも楽にすることができて良かった」(吉内)。
三回に無死満塁、併殺の間に勝ち越し、五回は逆に招いた無死満塁のピンチを、リリーフした畠中が切り抜けた。六回以降は強打の鹿実打線に二塁も踏ませず、1点差を守り切った。
「これまでここぞという試合を守備のミスで落としてきた」と山之口監督。だが「川内戦の延長十三回を勝ち抜いたことで選手たちが自信をつけた」。前川主将ら3年生は入学してから甲子園に縁がなく、大事な試合で負け続けた。その悔しい想いは「きょう、ここで勝つことにつながった。やってきた成果を出すことができた」と前川主将は胸を張って言い切った。
(政純一郎)
五回の後のグラウンド整備中に円陣を組んでいる際に、山之口和也監督から言われた。この試合自分の出番は厳しいかと、スタメンで出ている選手のキャッチボールの相手をしていたが「試合に出たい」気持ちが爆発し「出たいです!」と即答。六回表から三塁の守備についた。
六回、最初の守備機会でいきなりゴロが転がってくる。うまくグラブに収められなくて「ヤバイ!」と焦りかけたが「不思議と冷静で、すぐ拾って送球できた」。
2度目も同じ回だった。二死から投ゴロのはずが、畠中がうまくさばけず打球をそらす。内野安打でもおかしくない当たりだったが、バックアップでマウンド後方まで駆け寄って、素早く処理。ランニングスローで間一髪アウトを取った。難しい打球だったが「反応で捕れた」。樟南が掲げる「守り勝つ野球」を体現したような好プレーだった。
徳之島の亀津中出身。2つ上の兄・裕太も同じ樟南で、中3の時に夏の甲子園に行ったのを見て「自分も樟南に行く」と決めた。
入学してから今まで甲子園に縁がなく、昨夏はまさかの初戦敗退で「外野の厳しい罵声を浴びながら」の新チームのスタートだった。力はありながらも、個性の強いメンバーぞろいでチームがまとまらず、衝突することも何度もあった。それでも「主将の前川がよくチームをまとめ、監督さんが根気強く指導してくださった」ことに感謝する。
「お前なら絶対に甲子園に行けるから!」。裕太も直接会ったり、電話で話すたびに励ましてくれた。3年ぶりの甲子園は「支えてくれたみんなのおかげ」と心から感謝の気持ちが沸いた。
(政純一郎)
前川大成主将(金久中卒) 鹿実も意地があって、それに負けないように食らいついた。なかなか勝てなかったけど、勝てて本当に良かった。今まで負け続けていたけど、きょう勝つために今までやってきたことが発揮できて良かった。
積山水音右翼手(朝日中卒) (5番、右翼手でスタメン初出場)何となくスタメンで出られそうな雰囲気は感じていた。甘い球は初球から狙うつもりで打席になった。途中交代で活躍はできなかったけど勝てて良かった。どれだけ練習すれば甲子園に行けるのか、もがき苦しんだけれど、樟南に来たことに悔いはないと思えた。
東健人三塁手(亀津中卒) (六回から途中出場)監督さんから「お前、出る気があるか?」と聞かれて出たかったので「あります!」と答えた。個性の強いメンバーでまとめるのが大変だったと思うけど、前川がよくやってくれて、監督さんが根気よく指導してくださったおかげ。みんなに感謝したい。
佐々木健有選手(名瀬中卒) 最高です! 樟南に来て本当に良かったと思った。試合には出られなかったけど、ベンチも、スタンドも、応援団も一丸となって戦って、みんなで甲子園を勝ち取った。甲子園ではメンバー入りできるようアピールしていきたい。
九回表二死一塁。樟南・畠中優大が渾身の1球を投じて遊ゴロ。ボールが二塁手・折尾のグラブに収まり、勝利の瞬間を見届けると、天高く両手を突き上げた。胸に去来したのは「今まで生きてきた人生で最高の喜び」だった。
2日前は先発で試合を作ったが、この日は五回無死満塁の場面で、先発した浜屋からリリーフを託された。
「ここで抑えたら、俺がヒーローだ」
点差は1点リードしていたが「同点は仕方がない」(山之口監督)と思える場面だったが、畠中の気持ちは前向きだった。気負いや虚勢ではなく、今の「自分なら絶対に抑えてみせる」自信で真っ向勝負を挑んだ。
「今までやってきたんだから、俺のミットだけ見て投げろ!」
捕手・前川大成主将の言葉通り、淡々と投げ続け、5番・板越を一ゴロ、6番・追立、7番・井戸田智をスライダーで連続空振り三振。チーム最大のピンチを最高の結果でしのぎ、会心の雄叫びを上げた=写真=。
昨夏初戦の鹿児島情報戦、まさかの熱中症で「人生最大の屈辱」を味わってからの1年間は「悔しい想いしかしていなかった」。春以降、エースの座は浜屋に奪われ、リリーフで登板の機会をもらっても、結果が出せない悪循環に自信を失いかけたことも何度もあった。
それでも前川主将は「浜屋1人では夏勝てない。甲子園に行くにはお前が必要だ」と励まし続け、山之口監督も「それだけの力と経験は積んだ選手」と根気よく指導し、信頼し続けた。「あいつが誰よりも努力していることはチームのみんなが知っている」と前川主将。ナインの信頼を背負い、球威ある直球、それを生かすための変化球、磨いてきたすべての武器を存分にぶつけ、勝利を導く原動力へと成長した。
(政純一郎)
【決勝・鹿児島実―樟南】3回表鹿実一死二塁、同点の中前適時打を放ち、一塁ベース上で拳を握る4番・綿屋=県立鴨池
2日間の死闘の末、鹿児島実の3季連続甲子園は1点差の惜敗であと一歩及ばなかった。「1点、1球の重み、これが勝負の厳しさだ」。宮下正一監督はナインに語り掛けた。
初回、いきなり2点のビハインドを背負ったが、エース谷村を初回からリリーフに送り、守備を立て直す。二回には8番・喜岡が、三回には頼れる主砲・綿屋樹主将が適時打を放って同点に追いついた。その裏無死満塁のピンチも1失点でしのぎ、五回は逆に無死満塁と好機を作って、2日前散々苦しめられた樟南のエース浜屋を打ち崩す寸前のところまで持ってきた。
だがこの好機を、リリーフした樟南・畠中に抑えられ、ものにできなかったことから潮目が変わった。「板越、追立、うちの中心選手2人が抑えられたのは正直苦しかった」と宮下監督。六回以降もわずか1安打、二塁も踏めなかった。「畠中君をあの状態に持っていった樟南がすごい」と脱帽するしかなかった。
油断したつもりも、慢心したつもりもない。だが「いつかは打てる、春も(甲子園に)行っているから、夏もまた行けると心のどこかに緩みがあったのかもしれない」と綿屋主将は唇をかむ。自身もチームも、精一杯闘い抜いた自負はあったが「甲子園に行きたかった」と夢が叶わなかった悔しさをにじませていた。
(政純一郎)