「漆黒の澄んだ瞳があなただけを見つめ、口元のえくぼがあなただけにほほ笑みかけます。城南海のラブバラードをどうぞ…」。颯爽とステージに登場した「奇跡の歌姫」は、マイクに向かう。日本一のMC(司会進行)の言葉に送られ、渾身のライブが始まる…。
スポットライトが彼女を映し出す中で、バンドスタッフたちは、楽譜に目をやりながら次の曲に備える。「みなさん、こんにちは。うがみんしょーら!」。曲と曲の間、観客の心を引き付ける上で欠かせないのが、自らの進行役としてのMC力だ。
日本を代表するMC・徳光和夫は、「名曲にっぽん」のプロデューサーからレギュラーアシスタントとして紹介され、城と出会った。第一印象は、かつてテレビでよく共演した「早坂好恵さんに似た南国の美少女でした」。その瞳は、一世を風靡した沖縄出身のアイドルに似た輝きを放っていたに違いない。徳光は、その瞬間に、城の目力に将来性を見つけた。「向上心と吸収心の二つを目的としたもので、〝いつか陽の当たる日を迎える〟」と。〝持って生まれた感じの良さと、知らない事を知らないと言える正直さ〟がMCとして最重要だとする徳光。城は、その両面を既に兼ね備えていた。また、「他のMCにあまり感じられない大らかさ」も大きな魅力だが、「それら全てを身に付けた唄声こそが、彼女の魅力だ」と力説。舞台を際立たせる言葉の匠は、奄美が生んだ才能に太鼓判を押す。だが、「自ら歌心などを語るMCをされるのは大いに結構だが、あくまでも歌手・城南海として大成功してもらいたい」と、願っている。ジャズ、演歌、Jポップやフォークなどさまざまなジャンルを「みなみの声で聴いてみたい」と誰にも思わせる唄声が、その理由なのだという。とりわけ「奄美民謡で得たものを、さりげなく作品に加えようとする試みが素晴らしい」と絶賛するのだ。徳光は「彼女がもし私からMCとして得たものがあったとするなら、こんなうれしいことはございません」と、目尻を下げる。果たして、MCの流麗な言葉で紹介され、城が満面の笑みで目指す夢の大舞台は、いずこ。2006年、鹿児島中央公園での路上パフォーマンスからスタートした奄美の美少女のまなざしは、遥か遠くに向けられている。
(高田賢一・文中敬称略)