第8回世界考古学会議京都大会で企画された奄美・沖縄諸島に関するセッション内容について報告する鹿児島大学の高宮教授
鹿児島大学国際島嶼教育研究センター奄美分室の高宮広土教授=先史人類学・人類学博士=は28日、大島支庁内の奄美会館で会見し、同志社大学で開催された第8回世界考古学会議(WAC)で設けられた、奄美・沖縄諸島に関するセッション内容に関して報告した。琉球列島の先史・原史時代を専門に研究している高宮教授。人が入り込み生活することで島嶼環境は影響を受けやすいとされているが、奄美・沖縄の場合、「人による環境への影響が見えない」点が世界的にも珍しいとして注目されたとした。この事実は、自然と調和した狩猟採集民が存在することを示唆している。
同会議は4年に一度開催される世界最大規模の考古学会で、今回は京都大会として開催(8月27日から9月2日まで)されたが、東アジアで開かれたのは初めてという。さらに、奄美・沖縄諸島の先史時代文化が初めて世界的なレベルで取り扱われ、同地域に関するセッションが2本あった。1本目は北海道と南島の合同セッション。
高宮教授によると、海外で日本の先史時代が語られる際、多くは本州・四国・九州が対象となるが、今回は北海道と南島(主に奄美・沖縄諸島)の先史時代に焦点を当てたセッションが企画され、「もう二つの文化」の存在を明示するため、時代(旧石器時代、縄文時代・貝塚時代、アイヌ文化期・グスク時代)ごとに北海道と南島に関して発表。時代ごとに比較することで、もう二つの文化の存在を明らかにすることができ、さらにアイヌ文化や奄美・沖縄の文化の形成が見えてくるという。
多くの参加者は「本土以外の先史文化の存在を理解し、特に奄美・沖縄諸島の先史文化の豊かさに感銘を受けていた研究者もいた」(高宮教授)。
もう一つのセッションは、島の環境と人に関する世界的な視点からのもの。先史時代人と奄美・沖縄(琉球列島)の環境について、高宮教授は「さらなる検証が必要ではあるが、奄美・沖縄の先史時代の研究データは世界的に珍しいことが確認できた」と強調。「世界に通用する先史時代の情報」として、奄美・沖縄の貝塚時代(約6500年前~1千年前にかけて)における「人による環境への影響が見えない(現時点において・現時点の考古学的方法で)」部分がある。
島嶼環境は生態学的にとても脆弱なため「人の植民後および長期的な居住により大きな影響を受けやすい」とされるのが定説。動物の絶滅、資源の枯渇、景観の改造などで「人および人により持ち込まれた島外動植物の登場により、島嶼環境における多くの動植物はとても大きな影響を受けやすい」ことが理解されている。
奄美・沖縄の貝塚時代では、こうした島嶼環境への影響が見えないことについて高宮教授は「森林を伐採したり家畜を飼養する農耕民なら環境に影響を与えるが、奄美・沖縄では狩猟採集が行われ、自然の元での生活が営まれた。仮説ではあるが、人口も爆発的に増えていないため豊かな自然環境が維持されたのではないか」と説明する。
琉球列島では旧石器時代すでに狩猟採集民が移り住んでいたとされ、農耕が始まるグスク時代まで長期間にわたって狩猟採集が続く。旧石器時代に関しては、ほとんど理解されていないが、貝塚時代の狩猟採集生活では良質なたんぱく源としてサンゴ礁内でとれる魚類が重宝され、この時代の遺跡から出土する脊椎動物の骨の研究により「サンゴ礁に生息する魚類は極端に減少することなく維持(70%前後以上と高い割合)」され、狩猟採集生活を支えたと推測されている。
高宮教授は「島の環境に人が影響を与えなかったのは世界的に見ても稀有であり、琉球列島の先史学(考古学)の情報をさらに世界に発信する価値は十分にある。人間集団による環境への影響をより一層考察していくためにも奄美・沖縄での研究を重ねていきたい」と語った。