アサギマダラ「秋の渡り」

アサギマダラの「秋の渡り」は、移動時期の遅れや個体数の少なさが今年の傾向となっている=奄美大島北部の林道で=

全国的に移動遅れ
喜界では4例の再捕獲

日本列島を長距離移動するアサギマダラの「秋の渡り(南下)」が奄美でも確認されているが、今年は全国的な傾向として移動時期が遅れぎみで個体数も少ない。南西諸島への南下のピークは例年10月下旬から11月上旬にかけてだが、ずれ込みそう。喜界島では再捕獲が4例確認されているものの、これも少なく専門家は気象変動の影響などを挙げている。

アサギマダラはタテハチョウ科で、春には南西諸島から本州へと北上し、秋には南西諸島を目指して南下する。チョウの中では大型の約10㌢(翅=はね=を広げた場合)の大きさ。1千㌔から2千㌔ほどの長距離を、海を越えて移動するとされている。

移動の謎を探ろうと、アサギマダラの翅にマーキング(標識)する愛好家が全国にいる。医師で群馬パース大学学長を務める栗田昌裕さんは長年移動調査に取り組んでおり、アサギマダラに関する著書もある。毎年約1万頭のアサギマダラにマーキングし、南西諸島への南下では喜界島などを訪れ、再捕獲によって移動ルートを明らかにしている。

栗田さんによると、南下により喜界島での再捕獲の確認は10月19日が最初(山梨県の富士山麓でマーキングされたもの)。20日(長野県川上村)、21日(福島県グランデコスキー場・栗田さんマーク)、24日(愛知県三ヶ根山)と4例が報告されているという。

「喜界島での再捕獲の数としては例年のこの時期と比較すると少ない。全国的にみて移動時期が平均で10日ほど遅れている」(栗田さん)。奄美大島での再捕獲の報告(アサギマダラを調べる会の情報)は現在のところないが、同島では林道などで、自生種で吸蜜植物のヤマヒヨドリバナなどを草刈りせずに保護し、飛来時の吸蜜環境を整えているところがある。開花状態は良好だが、まだアサギマダラの飛来数は少なく、移動性はないリュウキュウアサギマダラが多く飛び回っている。

栗田さんは今年の南下について「夏には東北で例年より早く旅立ちはじめたが、群馬や長野など中日本以南は例年より遅れが生じている」と指摘する。8月21日には群馬で、福島でマーキングされたものを再捕獲、それが9月には再び福島で捕獲と過去にない北上例もあったという。中日本以南の移動時期の遅れの要因としては、台風など気象条件による影響が考えられている。

飛来の数も例年と異なるという。「これまで秋の渡りでは大量の群れが見られた。今年は大群ではなく、小さな群れでばらばらに移動している。気象条件、天候不順により移動のタイミングの問題などから乱れが生じているのではないか。移動の幅が拡散しているようだ」(栗田さん)。南西諸島への到着時期の遅れ、数の少なさにつながっている。

マーキングされる数も少なめ。栗田さんの今夏のマーキング数(東北・福島で)は6894頭。マーキングが例年の3分の2程度となったのは実施日数の関係で。中日本以南のマーキング状況をみると例年の半分、またはそれ以下にとどまっているという。

移動時期の遅れ、飛来数の少なさが今年の秋の渡りの特徴。南西諸島への南下のピークもずれ込むとみられており、11月から12月にかけても飛来の様子を観察できる可能性がある。この時期の吸蜜植物ではツワブキの花への飛来が見られ、喜界島のように奄美大島でもマーキングへの関心の高まりが期待されている。