ノネコ問題を県全体の問題として共有することを確認した「かごしま国際ノネコ・シンポジウム」
鹿児島大学鹿児島環境学研究会は30日、鹿児島市のかごしま県民交流センターで「ネコで決まる!? 奄美の世界自然遺産! かごしま国際ノネコ・シンポジウム」を開いた。基調講演やパネルディスカッションで奄美大島、徳之島のノネコなどの現状を報告。ノネコ問題を奄美だけの問題とせず県全体で取り組むよう問題の背景や事実を共通認識し、課題解決に向けた奄美の活動に理解を示すよう確認した。
今回のシンポジウムは、昨年12月に奄美市で開催したシンポジウムに続く第2弾。世界自然遺産登録に際して課題となっているノネコ問題を考える目的で開催した。
第1部の基調講演では、国内外で外来種対策などに取り組む3氏が発表した。環境省徳之島自然保護官事務所の渡邊春隆自然保護官は、飼い猫適正飼養条例の制定やTNR事業などにより、ノネコの供給源であるノラネコを増やさない対策、ノネコの捕獲・順化、譲渡など徳之島の取り組みを報告。「地域住民や獣医師、民間団体の協力が不可欠」として、課題に掲げる奄美大島での早急なノネコ捕獲・収容・順化などの体制構築、譲渡先の確保、住民の適正飼養の意識向上などの推進を訴えた。
ニュージーランド保全管理研究所のアル・グレン博士は、奄美大島・徳之島の地形や広さなどから、「ノネコを全島で駆除するのは難しい」と指摘。駆除に代わる方法として、①囲い込みによる特定地域での生息②コアゾーンにおけるノネコ個体数を減らし、希少野生動物の局所的管理を行う―などを提案した。同研究会の小栗有子准教授はノネコ問題について、「奄美に暮らす人たちにとっては暮らしの中にある問題」と強調。「ネコは人間にしか管理はできない」として、適正な飼い方の順守を提言した。
第2部のパネルディスカッションでは、ノネコ問題の解決や啓発活動などに取り組む4氏がパネラーとして参加。一般社団法人奄美猫部の久野優子部長は、「ノネコも野生動物も命あるもの。様々な対策を進める上で、費用も人も足りない。本土の人にも支援をお願いしたい」と訴えた。
NPO法人徳之島虹の会の美延治郷=おさむ=理事は、徳之島で2014年度から実施している2千匹超のTNR事業の実績と効果を紹介し、「今後は人のマナーを教育していかなければいけない」と意欲を示した。奄美市の「ゆいの島動物病院」の伊藤圭子院長は、ノネコの処分について言及、「いい加減な飼い方をしている人に声が届いていない。飼い猫やノラネコ対策をきちんとした上で、ノネコの処分をすべきだ」と指摘した。
グレン博士は「奄美の動物はまだ絶滅危ぐの段階。手遅れにならないようにしてほしい」と提言。これを受け、県獣医師会の坂本紘会長は「この警告をいかに実行に移せるか。時間は少ないなか、官民協働で取り組まなければならない」と述べた。
会場からは「不妊去勢手術と里親探しを車の両輪で実施すべき」「メディアによる周知がもっと必要」などの意見も。ディスカッションのコーディネーターを務めた鹿児島大学の星野一昭特任教授は、「ノネコ問題の事実を県全体で共有した上で、奄美が対策として現実的な判断をした場合も傍観せず、自分の問題として考えなければならない」と総評した。