スライド発表でザトウクジラに関する講演が行われた
奄美クジラ・イルカ協会(興克樹会長)は29日、奄美市名瀬のASIVI(アシビ)でザトウクジラ講演会を開催した。会場には65人の参加者が集い、各講師のスライド発表からザトウクジラの生態や奄美におけるホエールウォッチングの可能性などを学んだ。
興会長の講演では、今シーズンのホエールウォッチングの調査結果速報が行われた。3月25日現在で奄美近海に出現したザトウクジラは656頭で、ホエールウォッチングの参加者は1588人といずれも過去最高を記録。興会長は、ザトウクジラが自然に増えていることもあるが「LCC効果とガイドの努力の成果」と話した。
今シーズンの特徴として、1月から出現が多く見られたことと、小湊海域で多く出現したことを提示。ホエールスイムが人気になっていて、ウォッチング体験者の約4割がスイムを体験していると報告した。
久保雄広さん(国立環境研究所)は、アンケート調査を行いホエールウォッチングの可能性を検討。奄美にクジラを見るために来た旅行者の8割が目的を達成し、7割が満足したと報告。再訪意欲や他者に紹介する意欲も7割と高く、奄美でのホエールウォッチング、スイムの可能性は「まだまだこれから」とした。
東京海洋大学大学院の勝俣太貴さんは、個体数推定が調査の努力量に依存し精度が低いとし、継続してデータをとり精度を向上させたい考え。そしてホエールウォッチングの安定的な持続に向けて、「1年間の記録だけでは傾向が出せずデータの蓄積が必要」と提案した。
東京海洋大学大学院の加藤秀弘教授は特別講演「ザトウクジラに何が起こっているのか?」を行い、ザトウクジラの生態などを教示した。特徴として、産んだ子どもを餌場まで連れて行き、また元の場所に連れて帰ってくることと方言(すんでいる場所で鳴き声が違う)があることを挙げた。ザトウクジラは、夏季(7~9月)にカムチャッカ半島沖で餌を摂取し、冬季(12~3月)に沖縄・小笠原方面で繁殖・子育てすると説明した。
ザトウクジラの繁殖サイクルが他のクジラ種と違い、毎年出産するので「予測できない増え方をする」と指摘。それまで出現がなかった瀬戸内海でもザトウクジラが出現するようになっているという。
講演会終了後に興会長は、「研究者の成果を地元に還元しながら、安定的に持続可能な資源として活用していきたい」と話した。