「嘉徳侵食対策事業」検討委員会の初会合
瀬戸内町嘉徳で進められている「嘉徳海岸侵食対策事業」を検証しようと、県大島支庁が設置した有識者の検討委員会が31日、奄美市名瀬の総合宴集会場・奄美観光ホテルで初会合を開いた。当初、コンクリート製の護岸設置案(総事業費約5億3千万円)を計画した同庁瀬戸内事務所は工事着手を断念し、委員会判断を踏まえた計画の再考を表明。同事務所建設課は「侵食対策のあり方、方向性について各方面の意見を反映させながら、ゼロベースで検証していく」とした。
委員会は8月15日付で設置。同町や大学機関、環境団体、地元代表など委員7人で構成され、東京大学医科学研究所の服部正策特任研究員が委員長に選任された。
委員を前に、同課が計画の経緯を説明。2014年に接近した台風18・19号の高波で、集落海側に位置する墓所地前の海岸の砂が流出。同町が大型土のうを積み上げ応急的に対処したものの、家屋や畑への今後の影響を懸念した住民側から、町を通じた要望を受け、「住民の財産生命を守る必要性から事業実施につながった」(同課担当者)と述べた。
現状報告では、海岸周辺の植物・生物調査で、リュウキュウウマノスズクサ(県レッドデータブック・絶滅危惧Ⅱ類)、オカヤドカリ(国指定天然記念物)の個体を確認。また航空写真から過去から現在まで海岸線の変化などが解説された。
検討会で委員は、湾の中央部で侵食が深刻化していることから「波浪エネルギーの方向を確認するため海底地形の調査が必要」。そのほか、護岸対策事業の県内事例として、実施箇所や効果説明を次回に求め、地元代表の委員は「住民は台風接近のたびに不安に思っており、早急な対策を講じてほしい」と実施を訴える場面もあった。
嘉徳での対策事業は2016年度に計画がスタート。20年度までの5カ年で、集落海側に延長530㍍、高さ6・5㍍の護岸を設置し、防災化を図る狙い。17年度から本格的な工事着工が予定されていた中、今回の検討会開催は異例とみられ、奄美大島島内外で関心を集めた。一般公開された会場ではこの日、約20人が傍聴した。
同事務所によると、検討会の結論が出るまで事業進ちょくは保留。「集落地盤となっている砂丘の保全・維持」「将来的な侵食対策」をベースに引き続き事業立案を目指す考えだが、「検討会の判断を最大限に尊重したい」として動向を注視する姿勢だ。