「沖永良部スポーツクラブELOVE」設立

社会人も交えて練習に励む沖永良部高校サッカー部=和泊町=

町の枠を超えた組織へ

島のスポーツ環境変える

【沖永良部】8月下旬、地元のスポーツ振興を目的にNPO法人「沖永良部スポーツクラブ・ELOVE(イーラブ)」(以下、ELOVE)の設立総会が行われた。初代理事長に就いたのは、知名町で小学生ソフトボールチームのコーチをしている前田純也さん(41)。子どもの頃から野球に親しんできた。「島のスポーツ環境を変えたい。そう思っている仲間が集まってくれた」。組織の立ち上げまでに約2年。元沖永良部高校教諭の恩師らとともに、和泊、知名両町の枠を超えた組織を目指し動き出した。

小・中学校の児童生徒数の減少により、スポーツ少年団や部活動に入部する人数も年々減少。10月末現在、島内4中学校のうち、学校単独でチーム編成ができない知名町立田皆中学校野球部(部員数6人)と和泊町立城ヶ丘中学校野球部(同8人)は合同チームをつくり大会に出場している。和泊町立和泊中学校野球部は3年生の引退に伴い部員数は9人、知名町立知名中学校は12人となっている。さらに、和泊町で活動していた少年野球チームの一つは、いまの6年生が卒業するとメンバーが5人以下となり、来年度から単独チームでの活動が危ぶまれている。

ELOVEの理事長に就いた前田さんは知名町出身。小学1年生から野球を始め、中学、高校も野球部に所属、社会人となった現在も続けている。「野球の火を消したくない」との気持ちは人一倍強い。しかし「いまは人数を維持できているチームも、近い将来難しくなるのは確か。この問題は、野球だけではなく島内の全スポーツ団体が抱えている。大変な状況だと誰もが分かっていたが、動き出すことがなかなかできなかった」。

変化する島のスポーツ環境に問題を提起して組織設立までの道筋を作ったのが、元高校教諭で沖永良部高校赴任時(1991年~94年)にサッカー部の監督を務めた上村修史さん(72)だ。2010年に妻の和子さん(享年62歳)が他界したのをきっかけに思い入れのある沖永良部へ移住、今年で4年目となる。

沖高サッカー部監督時は「悔しさの連続だった」。大会で鹿児島へ向かう船の中は、各島の高校サッカー部が乗り合わせて賑わうが、帰りは1回戦で負けて1チームになることが多かった。「なぜ沖永良部だけが、と思っていた」。移住を決めた理由の一つだ。いまも沖永良部サッカー連盟のオブザーバー役として、高校を含めた各年代の子ども達にサッカーを教えている。

20年ぶりに島に戻り各競技団体を見て回った上村さんは「コーチとして頑張っている教え子や部活動の顧問をしている教諭に話を聞いてみると悩みは一緒。島全体の子ども達を対象に動けたらと思ったのが始まりだった」。高校時代の恩師の行動に前田さんも応えた。「先生は、スポーツに対して熱い気持ちを持って動いてくれた。それなのに島のメンバーが動かないのはおかしい」。

2015年10月、島内で活動するスポーツ団体や部活動の指導者を集めた第1回会合を開催。以降、毎月1回議論を重ねた。各団体の課題や今後のスポーツの在り方を話し合うなか「子ども達が好きなスポーツを選べる環境」「両町や競技の枠を超えた活動団体」が必要と考えた。組織のイメージは、身近な地域で多世代が様々なスポーツを楽しめる「総合型地域スポーツクラブ」だ。メンバーには、野球やサッカーなど各競技の地元コーチのほか、部活動の監督を務める教諭にも入ってもらうよう呼び掛けた。

ELOVEの本格的始動となる来年度は、保護者や中学生以上のスポーツ実態の調査や中学3年生を対象にしたスポーツ塾の開催を計画。将来的には、公共施設の指定管理を行い専属スタッフの雇用も視野に入れている。

前田さんは「小さな野球ボールが縁で多くの人と出会えた。人とのつながりを与えてくれたのがスポーツだった。そのことを今すごく実感している。これから多くの問題が出てくるはず。メンバーとともに乗り越え、スポーツを中心に沖永良部を盛り上げていきたい」と語った。
(逆瀬川弘次)