知名町長選振り返る

20年ぶりの新リーダーを決めた知名町長選挙開票作業=3日午後8時ごろ、知名町中央公民館=

激しい政策論争で高い関心

 

20年ぶりの新リーダー 新しい知名町に期待

 

 【沖永良部】任期満了に伴い、3日投開票された知名町長選挙をめぐっては、8月に現職の平安正盛氏(71)が勇退を表明し、新人による三つ巴の選挙戦となった。「町政一新」を旗印に前知名中学校長の今井力夫氏(60)が2278票を獲得、前副町長の栄信一郎氏(61)と元会社役員の山本誠氏(60)の2人を破り、20年ぶりの新リーダーに決まった。投票率は88・92%。「刷新」と「継続」を掲げた各候補の激しい政策論争に町も盛り上がった。

 ◇新人三つ巴

 5期20年にわたり町をけん引してきた現職の平安氏が8月に勇退を表明。平安氏は「町の課題は残っているが、新しいリーダーにバトンタッチしたい」と述べ、後継に前副町長の栄氏を指名した。後援会関係者も「今の知名町に必要なのは国や県のパイプを持っている人だ」と後押し。選挙戦では、前回選で平安氏を応援した建設業者を中心に地元町議も支援したが、栄氏は392票差で敗れた。

 対する今井氏は、5月ごろから選挙に向けて積極的に動き出す。あいさつ回りは町内だけでなく隣町在住の元教諭らにも及び、ミニ集会は町内全21集落で実施した。その理由は、高校卒業から島を離れ、教員になってからも沖永良部での赴任は知名中学校長の3年間しかなかったことにある。同級生でもある森山進後援会長は「(今井氏は)知名度があまりなかった。住民も顔と名前が一致していなかった。全集落でミニ集会を開いて、知名度アップと政策の浸透を図ってきた」と話す。

 告示後、今井氏の1日のスケジュールを追うと、午前8時から午後5時半ごろまで遊説、後援会事務所で数分間休憩したのち、立会演説会に出発。二つの集落を回り、1集落70人ほどの住民の前で約20分間政策を訴え続けた。選挙の勝因について森山後援会長は「今井氏の話す力がすごかった。住民をしっかり引き付けることができた」と評価した。

 山本氏は、選挙に向けての動き出しが遅く、後援会組織を作らなかったこともあり知名度アップに苦戦。告示前に開催された公開討論会が、多くの住民の前で政策を訴える唯一の場となった。結果は、226票にとどまった。

 ◇勝敗の分岐点

 今回の選挙では、住民有志が主催した町で初めての公開討論会(11月7日)が開かれた。参加したのは今井氏と山本氏の2人。質問10項目に一問一答形式で行われた。住民の関心も高く、会場のあしびの郷・ちなには500人以上が詰めかけた。

 当選後、「公開討論会がターニングポイントになった」と今井氏は話している。

 多くの町民が3人で討論する姿を望んでいた。観客の80代男性は「とても良かった。ぜひ3人でやってもらいたかった」と感想を述べた。この会に栄氏が参加しなかったことで、票が今井氏と山本氏に流れたのは確かだ。

 ◇政策論争が町を盛り上げる

 沿道で応援していた60代男性は「3人も立候補してくれたのは良いこと。議論することで町が活性化する」と語り、70代男性は「高齢者の知恵を若者はもっと活用するべき。そういう施策を実行してくれるリーダーがいい」と訴えた。人口減少、特に若者の流出は世代間の分断を生み、議論する環境を減らしている。

 今回、政策論争の中で取り上げられなかった「合併問題」は、島の活性化を考える上で重要なテーマになる。公開討論会の質問として提出されたのも「沖永良部はひとつ」と思っている住民が多いという証拠だろう。

 今井氏は「町民との対話、町民目線の町政」を公約に掲げた。町長と町民の対話、または町民同士の対話、さらには両町同士の対話を進め、新しい知名町、新しい沖永良部島を築けるのか期待したい。
 (逆瀬川 弘次)