「島嶼の生態系を守るため」上

2017年2月25日に東京で開催した外来生物問題の啓発シンポジウムの様子

外来生物問題と自然の価値

 

WWFジャパン自然保護室

 

南西諸島プロジェクトリーダー 権田 雅之

 

 世界自然遺産登録に向け手続きが進む中、奄美大島では様々な環境問題に直面している。マングースやノネコなど外来生物問題は、世界的な優先課題。今回地元団体の活動や中学生らの発表を通して、学ぶ機会としてシンポジウムが企画されている。シンポで伝えたいこと、3回に分けて掲載する。

 奄美大島は、世界的にも希少な野生生物が生息し、それをはぐくむ森林生態系が残る島です。現在国で手続きが進められている世界自然遺産登録により、今後一層の観光客の増大が見込まれ、島内の観光産業規模の拡大も予想されています。一方で、観光客やツアー事業の増加に伴い、林道等でのレンタカーを含む交通量の増加の結果、野生動物の交通事故や夜行性動物の生息環境の悪化が懸念されています。

 また島内に1万頭いるとも推定されているノラネコや、すでに森林部に生息しているノネコなどが、アマミノクロウサギをはじめ野生動物の捕食被害を与えている問題に対し早急に対策を講じる必要があります。

 外来生物による在来自然環境への影響課題は、奄美大島や離島だけの問題でなく、世界的な課題と位置づけられており、国内でも、政府の方針として定める生物多様性国家戦略2012―2020は、3つの大きなの課題のうちのひとつ「人間により持ち込まれたもの(外来種など)による危機」として、優先目標に掲げられています。

 民間の自然保護団体であるWWFやNACS―J(日本自然保護協会)らは今年、全国的な普及啓発が必要であるとして、東京都や沖縄県でシンポジウムを開催しました。今回の奄美大島での開催では、地元の自然環境に詳しい、写真家の常田守氏による、住用川流域を事例にした奄美の自然の世界的価値の解説や、WWFが協働する奄美大島の奄美ネコ問題ネットワーク(ACN)による、学校や集落でのネコの適正飼育啓発の取り組み紹介のほか、地元の朝日中学校や市中学校の生徒らによるノラネコ調査や環境保全の活動発表も予定されています。

 島の自然や生き物を、島の文化の基盤、観光業など地元経済振興に不可欠な資源、そして次の世代に受け継ぐべき奄美大島らしさを象徴する宝として、守り維持していく方策を住民の皆さん一人一人と共に考える機会となるよう、皆さまのご参加をお待ちしています。