現在収穫・出荷シーズンを迎えている奄美代表果樹のタンカン(名瀬中央青果で)
奄美代表果樹の一つ、タンカンは収穫・出荷シーズンを迎え、各地の販売所で商品を買い求める人の姿はこの時期に見慣れた光景だ。全国のファンの手元にも届いていることだろう。多くの人の記憶に今なお強く残っているのではないか。国内では、1986年に根絶が確認された、果実・果菜類の害虫ミカンコミバエ種群が2015年9月以降、奄美大島で大量に発生していることが確認された。その後南部から北部地域にも拡大を続けるなど事態は深刻さを増し、12月中旬には植物防疫法に伴って、果実・果菜類の島外出荷を規制する緊急防除省令を施行。根絶宣言されてから36年ぶりの規制の実施だった。
当初事態が長引くことも懸念されたなか、航空防除、テックス板(誘殺)の増設、地元の住民らも加わった寄主植物の撤去作業など国や県、各市町村一体となって進めた取り組みも奏功し、15年12月13日の施行から約7カ月続いた緊急防除措置は解除(16年7月14日)。明るいニュースに安堵感が広がった一方で、再度侵入が確認された際の即時対応や日頃の侵入防止策など体制の見直しを求める声も挙がった。
その後農水省は、侵入が確認された時の地元住民への情報提供はじめ、ともに地元の関係機関と連携することを盛り込むなど初動体制も見直した防除方針を策定するなど、さらなる防除体制強化も図られた。
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鹿児島県と農研機構(国立研究開発法人 農業・食品産業技術総合研究機構、茨城県つくば市)は16年から3カ年で、農林水産省の革新的技術開発・緊急展開事業(うち地域戦略プロジェクト)を進めており、ミカンコミバエの飛来源の一つに考えられる台湾の研究機関とも協同し、ミカンコミバエの再侵入・定着防止対策の確立に向けた試験研究を実施している。
2月5日、鹿児島市でシンポジウムがあった。台湾の研究機関・行政院農業委員会農業試験所(TARI)から4人の研究員を招き、台湾での発生状況、対策などの紹介。また、農研機構の研究員らも登壇し、同試験所とも協力し進めてきた研究成果などが発表された。
シンポジウムを主催した同機構九州沖縄農業研究センターから、同プロジェクトの概要説明があり、参画する国内の各関係機関、県や地元自治体とも進めている研究内容、諸課題なども発表。昨年初めて、熊本県でも誘殺が確認されたことも踏まえ「沖縄県で多かったミカンコミバエの飛来が、最近では鹿児島県の島しょ部での頻度が増えているなど、今後は九州本土も含めて飛来のリスクが増えるものと考えられる」と警鐘。「将来に渡って、トラップ等で再侵入が確認された場合でも定着・増殖を事前に阻止する技術開発が早急に必要」との指摘もあった。
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15年に奄美大島で起きたミカンコミバエ種群の再侵入、そして大量発生。タンカンなど果実類が廃棄処分され、生産農家はじめ多くの関係者に大きな衝撃と不安を与えた。根絶宣言が出されて以降も、奄美群島内などで再侵入は繰り返され、農業が重要な産業の一つである島々にとって、作物を脅かす害虫の侵入、発生を防ぐことは今後も引き続く課題だ。
今回、シンポジウムで発表された研究成果などを、連載で紹介しながら「防除の最前線」に触れてみたい。