「防除の最前線②」

「防除の最前線②」

台湾での発生状況や現在の対策などを紹介する、行政院農業委員会農業試験所のファン研究員

根絶目指さない防除対策 効果高い強力トラップを
台湾の発生状況、対策紹介 行政院農業委員会農業試験所

 ミカンコミバエは、主に中国、台湾、東南アジアに分布する、体長約7㍉のミバエ科の昆虫。「奄美群島の概況」によれば、1929年に奄美群島(喜界島)に初めて侵入したとされている。沖縄県、奄美群島などにも分布していたが、86年までに国内根絶を達成した。

 しかし、その後も分布地に近い南西諸島などでは、台風や偏西風に乗り、毎年数匹から数十匹の侵入が確認されている。2015年の奄美大島での再発生はもちろん、17年にも、沖縄県で116匹、鹿児島県(屋久島、徳之島、沖永良部島)で計18匹、さらに熊本県で初めて1匹の誘殺が確認された。

台湾国内の防除の現状

 台湾の発生状況や対策などの現状について、行政院農業委員会農業試験所のファン・ユービン研究員が説明した。台湾の病害虫との防治(防除と類似語)の歴史は100年以上が経過する。1910年代初め頃には「たいていの果樹園でコバエが見られていた」。その後「政府が主にしていた防除を農家も積極的に行うように」なり、「1975年頃から幾つかの防除技術が向上」。しかし、「残念ながら沖縄のように根絶することはできなかった」。

 その後、政府は政策を転換し「オスを殺す防除対策に切り替え、2000年以降は區域=区域と類似語=防除という概念を入れてやってきた」。現在は、「沖縄を参考に飛行機を使い防除資材の投下」などの策を取っており、「管理されていない所に使えばたくさん殺すことができる」と、その効果を挙げた。

根絶目指さない総合的な防除

 台湾の防除に対する方針で特徴的なのが『根絶を目指していない』という点。「対策として鹿児島県と違い、コバエの歴史は長く、根絶ではなく、総合的な防除策を取っている」。主に、「防治技術」と「監測=モニタリング=技術」を合わせたものだという。

 防治技術として▽オス除去法▽食物誘殺(ベイト剤での誘殺)▽果樹園の整備―三つを柱に据え、「それぞれの区域ごとでモニタリング技術を持ち込んでいる」。

 もう一つが監測技術。「(虫は)1年を通じて発見されており、モニタリング(監測)システムで研究調査を行っている」。約60の市町村、約550のモニタリングスポットを設置しており、10日間ごとにデータがまとめられる。地図上に、4色(緑、青、黄、赤)で誘殺数によって色分けされた分布データが示され、農家や各関係機構にも情報開示される。「数の変動を見ることができ、モニタリンスシステムを使った研究によって、防除法や取れる対策などのアドバイスができる」。

農家も主体的に防除対策

 「私たちの基本理念として、農家さんたちにも主体的に防除作業をしてもらう」。農家の損失を最小限に抑えることを目標に、「農家さんたちがチームで、行う総合的な防除(組合を作り、自分の農園だけでなく一定の区域の中で防除していく)」として、「摂食環境の防除、野生の寄主も含めた防除」などに取り組み、実際に「農産物の損失が減ったことを実感している」。

 具体例として、成熟していく果実への袋がけ、普及を目的に無償提供された誘引トラップを専門員の指導を受けながら設置する機会もあるという。また、オスのみの誘殺でなく、メスが好む加水分解物質に農薬を配合させてメスを除去する防除の可能性も提示した。

効果高い強力なトラップ開発を

 台湾と日本、方針に違いはあるが、農作物への被害軽減を目指すという課題は共通だろう。両国の研究テーマに関して、黄研究員は「(日本は)侵入の早期発見を大事にしている。侵入をより早く発見できるようにすることだろう。日本でのトラップ装置の研究はとても進んでいるが、日本と一緒に、もっと効果が高く強力なトラップを試作していきたい」と話した。