「防除の最前線」④

農研機構の霜田氏は、台湾と協力し現地で行っている調査研究を紹介。また、トラップ開発の現状を報告した

トラップ開発の現状報告
台湾で現地調査

 台湾の行政院農業委員会農業試験所(TARI)の協力も受け、再侵入防止のための予察技術の開発が進められている。農研機構生物機能利用研究部門・霜田政美氏は「行動特性分析に基づいたミカンコミバエ捕獲トラップの開発に向けて」を演題に講演。台湾と協力し行っている現地調査の結果などからトラップ開発の現状、今後の課題などを報告した。

 霜田氏を含む研究チームは、より効率的な捕獲・モニタリング技術の開発を目指し、▽行動学的特性解明▽効率的な捕獲トラップの考案と現地実証―などに取り組んでいる。

 侵入調査や駆除する際の現行技術で代表的なものとして、誘引剤メチルオイゲノールを使った誘殺板(テックス板)やモニタリングトラップなどがある。メチルオイゲノールは強力にオスを誘引する物質。トラップ効率の向上、またメスの捕獲にも効果的な誘引技術の開発も目指し、様々な実験を行っている。

行動特性知る調査実験

 ミカンコミバエの活動時間を知るための実験では、赤外線センサーを用いた検出装置を台湾に持ち込み、1日の活動リズムを分析した。「朝は、明るくなっていくのと並行して徐々に活動も上がっていく。一方で、夕方の暗くなっていく過程では、日没から少し遅れて活動が急激に下がる」、「気温の影響が大きく、5度程度の温度差も活動性が大きく変化する」ことなどが分かった。

 「ほぼ完全な昼行性だが、日没後30分ほど活動を継続する」、「暗い状態で活動するということは、ライトトラップを使用できる可能性があると考えている」。

 虫によって誘引される光の色(波長)が違うことが分かっているが、波長に対する選好性を調べる実験を実施した。装置中に赤・緑・青など3原色のほか、虫が見える紫外線等6色のLEDの光を、それぞれ6方向から見せて、中央に置いた虫がどの波長を選ぶのか検証すると、紫外線に最も強く誘引され、「紫外線は近距離で強力に引き付ける力があることが分かった」。

効果比較検証

 実際に、基本タイプのトラップ(Mcfhail型、市販のベイト剤を添加)に、ソーラー蓄電型LED(紫外線の光)を付けたトラップを設計し、台湾の果樹園に設置して1週間経過を観察すると、様々な虫に混じり、ミカンコミバエも捕獲された。

 また、トラップの色彩別の捕殺効率を調べようと、元々プラスチック製で黄色の本体の一部に、黒、白、赤の紙、またアルミホイルを巻いた5種のトラップをそれぞれ設置。「あくまで参考」としながらも、「少なくともトラップの色彩を変えることで、捕殺数を向上できる可能性が示された」。このほか、誘引成分の検証のため、果実フレーバーごとに捕獲数の差を見る比較実験なども台湾で実施。「結論には至っていないが、特定の果実フレーバーが、オスだけでなくメスも誘引することが示された」。

展望

 これまでの各種研究成果なども踏まえ、霜田氏は「試験回数が少なく、まだ結論には至っていないが、メスを含めた誘引方法について幾つか新しい手がかりが得られた。誘引要因の物理的・化学的な解析を進めることによって新しいトラップの設計を進めたい。今夏、試作したトラップの実証試験を台湾で実施する計画もある」など引き続き、トラップ改良へ意欲を示した。

 シンポジウムの最後に、農研機構中央農業研究センター企画部産学連携室の守屋成一専門員(農学博士)があいさつし、防除に関する展望、また台湾との研究などについて総括。「奄美大島からのミカンコミバエ根絶は幸いにも早期に達成された。今後の課題は、効果的なモニタリングシステムの構築とその維持、さらに再侵入した場合の迅速な防除体制の確立と維持に向けられるだろう」、「国内ではたとえ実験室内であっても、逃亡のリスクを考えるとミバエの実験は簡単にできない。解決すべき問題はあるが、これまで日本・台湾でのミバエの共同研究はほとんど行われてこなかった。ミバエに関する広域的な共同研究体制が構築できれば良いと考える」などと話した。   (平 真樹)
=おわり=