鹿大プロジェクト生物多様性シンポ

鹿大プロジェクト生物多様性シンポ

総合討論を行う星野特任教授(左から順に)、鳥飼会長、米田名誉教授、美延事務局長

保全と利用「来訪者管理が重要」
植物や森林生態系学ぶ

 

 鹿児島大学「薩南諸島の生物多様性とその保全に関する教育研究拠点整備」プロジェクトは3日、奄美市名瀬のAiAiひろばで生物多様性シンポジウム「奄美の植物と世界自然遺産」を開いた。学生や一般など約60人が参加し、各講師の講演を通して奄美の植物や森林生態系の理解を深めた。

 同プロジェクトは、奄美大島と徳之島が世界自然遺産推薦地で6月の登録を目指していることからシンポジウムを企画。参加者に登録後の保護の取り組みや環境教育、エコツーリズムなどを考える場としてもらうために実施された。

 講師を筑波大学の吉田正人教授、NPO法人徳之島虹の会の美延睦美事務局長、鹿児島大学の米田健名誉教授、奄美野鳥の会の鳥飼久裕会長、同大の宮本旬子教授、同大の星野一昭特任教授が担当。吉田教授は登録後の保全と利用について、「過剰利用とならないようモニタリング調査に基づいた来訪者管理と、世界遺産と地域遺産を結ぶインタープリテーション(自然解説)が必要」と語った。

 美延さんは、徳之島の植物・森林の保全と活用などについて講演。活動を通して、▽ゴミの不法投棄、道路でのポイ捨て▽昆虫や植物の希少種の盗採▽ネコにクロウサギなどが襲われる―などを徳之島の課題と位置付けた。

 米田名誉教授は、奄美の植生を固有性と共通性で解説。「同緯度帯に比べて、湿潤気候下での熱帯と暖温帯をつなぐ唯一の亜熱帯多雨林。亜寒帯まで森林が連続的に分布。カンアオイ類は現在も種の進化が続いていると言える」とした。

 鳥飼さんは、鳥や木の調査から奄美の森を紹介。「奄美の森はスダジイが優占種。ルリカケスやヤマガラの貯食行動でシイの森が広がる」「松枯れの樹はカミキリムシの幼虫が多く、幼虫はオーストンオオアカゲラのエサとなり、枯れたリュウキュウマツは営巣木に利用。やがて枯れた樹が倒れ、すき間にシイなどが生えて森は再生していく」と説明した。

 宮本教授は、奄美の植物相調査と外来種など発表。「奄美には千種類を超す植物が生息。奄美はシダ植物や単子葉類が、全国の割合より多い。奄美の外来種は耐陰性や栄養繁殖などから、大量に増える可能性もある」と指摘した。

 星野特任教授は、世界自然遺産登録の現状や見通しなどについて他の世界自然遺産地域の事例も合わせて報告。「IUCNの現地調査に参加。IUCNの専門家2人に、取り組みなど理解してもらえた。世界自然遺産登録は出発点。価値を損なわないように、地域が一体となった取り組みの継続が求められる」と話した。

 休憩後に、吉田教授と宮本教授以外の4人が登壇して総合討論。自然保護と林業との共存や、会場からの意見も交えて意見が交わされた。

 大島高校2年の渡彦大=げんた=さんは、「こういうシンポジウムに初めて参加した。同緯度の連続する森林など知れて良かった。また機会があれば参加したい」と感想を述べた。