島人の精神や特徴も伝授

島人の精神や特徴も伝授

徳之島出身の常連らの前で、島口の確認をして練習する一三さん


何度も徳之島ことばを書き直して本番に向け準備する一三さん=いずれも2月

大河ドラマ「西郷どん」 奄美ことば指導の一三さん(奄美市名瀬出身)

 【東京】大河ドラマ「西郷どん」の奄美大島、沖永良部島に流刑になる「島編」では、番組史上初めて日本語字幕が採用された。その中で、奄美ことば指導に当たったのが俳優で「笑顔の伝道師」こと一三=いちぞう=さんだ。奄美市名瀬出身だが、昔の方言を表現するのは至難の業。そのため徳之島出身者が経営する恵比寿の居酒屋・大吉に赴き、常連らに確認するなど苦労を重ねた。自身も出演した背景に、関係者の証言などを基に迫った。

 一三さんは、6月24日放送「地の果てにて」の回に、琉仲為として登場。徳之島で「こん島から大島は見えっとじゃろかい」の西郷吉之助の問いに「こん岡前から大島にゃ見えれんしぇら。誰か気になりゅん方がおられりゅんだりゃや」と返事。吉之助が愛加那と再会を果たす、感動的な場面に立ち会った。

 愛加那を演じた二階堂ふみさんの言葉使いは、奄美の人たちにも大評判に。制作統括の櫻井賢さんによると「沖縄出身の二階堂さんは、わたしどもにも馴染みのない言葉も理解できるとおっしゃってました」とのこと。

 それを引き出したのが、一三さんだ。二階堂さんの絶賛ぶりに「わが(自分の)くとぅぬし(ことのように)ほらしゃや(うれしいなぁ)」とツイートした一三さん自身だが、出演2日前にせりふを変えたので「徳之島ことばに直してくれと監督から言われ、奄美ことば指導での撮影の合間に徳之島の方に問い合わせて直し、監督にチェックを受けた」。その後、「もう少し分かりやすくしてくれと言われさらに思考し、それが仕上がるとボイスレコーダーに吹き込み、徳之島の方に送ってチェックしてもらい、ことば直しが終わったのが、出演前日の午後11時頃」だったという。

 しかし本番では、さらに分かりやすくなどの注文も。「たった二言のせりふなのに、自分自身に対する方言指導が一番大変でした」と振り返る。

 一方、「一三さんは、言葉だけでなく、そのどこかゆったりとした人柄を含めて、島の人の精神というか、いい意味で、おおらかな島人の特徴をスタッフ、キャストに教えてくれました」とは櫻井さん。また、里アンナさんが現場にいたことも奄美の深い文化もうかがえ心強かったらしく、吉之助を演じた鈴木亮平さんも、「あげ!とか、ありがっさまりょうた!とよく使ってらっしゃいましたね」(櫻井さん)。

 そのためスタッフの間でも「ありがっさまりょうた」「・・・くりしょり」などがよく交わされていたという。「徳之島を代表する歴史的な人物」を堂々と演じた一三さんは、「牙狼―GARO―神ノ牙―KAMINOKIBA―」(2018年)などの映画のほか、舞台やコマーシャルでの活躍が期待されている。